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ありがとうの日-弐
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「今日は父の日ですから」
その言葉に、漸く合点がいった。
「嗚呼…そうか。考えたこともなかったな」
「父の日ってはじめて知りました!父さまありがとうの日!」
父の日なんて意識がなかったから、子供たちに教えたこともなかった。
自分が良い父親であるなんて、とても思わない。
葵がいなかった時は、葵の分まで親の役目を果たそうとはしたが、それは飽くまでも次期当主を育てるという義務感であったし、朱雀を望んだのだって結局はその先に葵を望んだからだ。
それでもお前たちは、俺を父親と認めてくれるのか。
「ありがとう、朱雀、真白」
小さなふたつの頭を撫で付けると、朱雀の黒曜石の瞳が大きく見開かれた。
「父さま……母さま!父さまにはじめてなでなでされました!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて葵の手をとる朱雀に、良かったですねと微笑む葵の顔は、完全に母親のそれだった。
それにしても、初めてと言うほど朱雀の頭を撫でたことはなかっただろうか。
それすら覚えていない俺は、本当に父親失格だろう。
「父さま!もっと!」
そう言って興奮気味に頭を差し出してくる小さな息子に苦笑しつつ撫でてやっていると、視界の端で葵が真白を抱き上げたのが見えた。
「真白様、お眠ですか?」
「……ん、ん……」
時計を見れば、普段子供たちはとっくに夢の中の時間だ。
朱雀は興奮しているが、時期に落ちるだろう。
「さぁ、朱雀。お前も寝る時間だ」
「いや!母さまと父さまとじゃなきゃいや!」
「朱雀様、お部屋で眠らないと。お父様を困らせてはいけませんよ」
「やだ!いやです!!やだああああ」
先程まであんなに嬉しそうに笑っていたのが嘘のように愚図り始める朱雀。
「仕方がない。葵、寝室に運ぶぞ」
「よろしいのですか?」
「たまには良いだろう」
部屋の外で控えていた使用人に子供達を渡し、自分たちの寝室に運ぶよう伝える。
風呂には後で入ることにして一先ず着流しに着替え、子供たちが眠る布団に向かった。
2組の大きな布団に並んで眠る朱雀の隣に葵が、真白の隣に俺が横になり、子供たちを挟む形で川の字になった。
もう半分意識はないはずなのに、葵が横になった途端その寝間着を離さないように掴み丸くなる朱雀。
「可愛い--」
その顔や髪を撫ぜる葵の指は、この上なく優しく愛おしげなものだ。
そしてその表情すらも。
こんなにも穏やかな葵の表情は、初めて見た。
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