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あの日あの頃あの記憶-壱
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視点-朱雀-
あの日。朝食の席で聞いた父の言葉に心躍り、居ても立っても居られずに使用人の目を盗み、邸を抜け出した。
焦って俺の腕を掴み邸に戻ろうとする真白を振り切り、庭の奥の、立ち入りを禁じられていた門を開き、奥に進んだ。
いくら子供のものとはいえ、足が疲れるほども続く石畳の先にあった、一見慎ましやかな、けれどよく見るととても手の込んだ細工や工夫の凝らされた舎宅。重要な式典などにしか見かけないような、本家の中でも最上位の使用人達。
そんな、父の絶大な愛情を具現化したような、外部から護られた空間に住まう、儚げな美しい人。
女神だと、そうとしか思えなかった。
あの時の感動は、きっと生涯忘れることはないだろう---。
この世に生を受けてから、ずっと心の片隅にあった、母という存在。
絵本の中でしか見たことのなかったその存在はしかし、たまにしか会わない父よりもよっぽど俺の中に刻み込まれていた。
それはもしかしたら、俺のことには義務的にしか反応しないのに、母に関することだけはその無機質な瞳に熱を込め、愛おしげに目を細めて語る父の姿に、会ったことのない母に対して嫉妬していたがゆえのことなのかもしれないと今なら思う。
あの日、今夜母に会えると、これからは一緒に暮らせると言って、初めて心から笑った父を見た。
あの常に無表情な父にそんな顔をさせる母とは、どんな人なのだろう。
それを見てみたいという好奇心を捨てきれず、数刻待てば会えるというのに俺は父が母を大切に守る聖域に自ら足を踏み入れた。
実際に見る前に俺の想像していた母とは、絵本の中に描かれていた母とは、いつも笑顔で、恰幅が良く、時に怒り、無条件に子を愛する者だった。
しかし実際の母とは、柱の陰からこちらを覗く、女神のようなその麗しいかんばせに涙をつたわせた、華奢な体躯の、今にも消えてしまいそうな、切なげな方だった。
ただ、そんな母という存在は、一度その腕に包まれてみれば、想像するよりもはるかに美しく、嫋やかで、温かく、繊細で、大らかなものだった。
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『此処に、愛ありて。』をお読みくださりありがとうございます。
今回のお話は朱雀と真白が中心となります。
この2人に関しては、別に一つ小説を作るつもりでいますので、今回はそのネタバレにならない程度にお話を進めていきます。
「朱雀が真白と出会って葵と再会するまで」というテーマですが、Twitterにてアイディアをいただきました。ありがとうございます♪
もし何かご希望のお話などある方がいらっしゃれば、是非Twitterやコメントにてお教えくださいね(*´꒳`*)
拙文ではございますが、これからもご愛読いただければ幸いです。
冬樹ゆき
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