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あの日あの頃あの記憶-参
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今まで、沢山の使用人と唯一のΩに囲まれて、1人になったことはなかった。けれど俺は、若様と傅かれることなど望んではいなかった。
朱雀と呼ぶ無機質な声の父が俺に見ているのは、己の息子ではなく、次期当主という立場だと知っていた。
朱雀さまと俺を慕う真白の伸ばす手は、俺の中のαを見ていると、知っていた。
だから俺は、俺を俺として、ただ1人の人間として、俺を朱雀として、一心に愛してくれる人が欲しかった。
俺はただ、無条件に愛されたかった。
だからこそ俺は、母という存在をあそこまで渇望したのかもしれない。
そんな、俺の中の貪欲なまでの渇きにいつから気付いていたのだろうか。
ある日、その膝で甘える幼い俺に、母は言った。
「朱雀様、僕は貴方を、とてもとても愛しています。親として、貴方を産んだ時の喜びは何にも勝るものでしょう。それはお父様も同じこと。ただお父様は、今滝寺の当主として貴方に接さねばならない時もあるのです。それだけは、わかって差し上げてくださいね。
--でも、朱雀様。これだけは覚えておいてください」
「僕もお父様も真白様も、みんな貴方を愛していますよ」
しっかりと目を合わせて告げられたその言葉に、思わず俺はきょとんと母を見つめてしまった。
「母さまと、父さまと、ましろ?」
「ええ、そうです。真白様なんて、貴方を一生愛していますよ」
「なんで?どうして母さまにわかるのですか?」
「わかりますよ」
「だって、真白様が貴方を見る目は、僕が鷹仁様を見る目とおんなじですもの」
そう言って笑った母は、女神よりもよっぽど輝いていた。
「朱雀様?どうかされましたか?」
Ωであっても同じ教育を、と父が真白に用意した学びの場は大層真白を喜ばせ、勉学に集中している時は此奴はなかなかこちらを見ない。
だが、そんな真白を見つめ続けていれば、流石に視線が気になるのだろう。
ようやく本から顔を上げ、此方を見返してきたその瞳には、不思議そうな色はあれど、母が父を想うような色は見受けられない。
ただ、まぁ---。
「なんでもない」
「ふふっ、お疲れですか?お茶でもお淹れしましょうか」
そう笑う真白が可愛いなと思う俺がいるのだから、母の言葉もあながち間違ってはいないのだろう。
「そして朱雀様。貴方にも運命の番を自覚する時がいつか来ますよ」
その時は真白、その手を俺から掴むから。
だから、その時までに、お前も俺のことを想ってくれないか。
あの日あの頃あの記憶-完-
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