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愛しい番よ幸せに-参
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その日から俺は侍女長に頼み込み、葵の好きな甘味や果物、書物や植物なんかを日々贈り続けた。
ほんの少しでも葵の希望になればいい。
ただ、それだけを願って。
日々の報告からこの贈り物を楽しみにしていると知り、やっと息を吐くことができた。
そうして、あの青もみじから1年が過ぎた。
葵はもう20になった。
俺も30になったし、朱雀もこの秋に4歳になる。
そろそろ朱雀の七五三用の着物を誂えなくてはならない。
それまでには、葵と共に暮らせているだろうか。
私室に一人きりだと、ついそんなことばかりを考えてしまう。
とそこへ、部屋の外から幼い声がかかった。
「とうさま」
「朱雀か。入れ」
スッと佇まいを正す。
いつどこからどんな情報が漏れ、それがどう足を引っ張るかわからない以上、相手が実の息子であっても気を抜けない。
「しつれいします」
幼児らしからぬ礼儀正しい所作で部屋に入ってきた息子の手には、絵本。
「そこに座れ。どうした?」
「はい。とうさま、ききたいことがあります」
「なんだ」
己の前に座らせ、こちらを真っ直ぐ見つめてくる、笑えるほど己にそっくりの息子に向き直る。
「とうさま、『おかあさん』ってなんですか」
唐突にぶつけられた純粋な疑問に、思わず息を呑んだ。
答えられずにいる俺に、息子は尚も続ける。
「このえほんに、でてきたんです。おとうさんと、おかあさんと、おにいちゃん。
おとうさんと、おにいちゃんは、わかったんです。とうさまと、ましろのことだなって。
でも ぼく、おかあさんだけがわからなくて。
せんせいにきいたら、わかさまをうんだひとのことですよ。っていうけど、じゃあ なんでこのえほんみたいに いっしょにすんでないのってきいたら、しきたりですからって。
しきたりってなんですか?
ぼくのおかあさんはどこにいるんですか?」
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