アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
愛しい番よ幸せに-伍
-
「当主様、こちらが本日のお手紙にございます」
仕事の手を止め侍女長が差し出した手紙を開くと、今朝の菓子のお礼から始まる、葵らしい繊細で丁寧な文字が並んでいた。
あの青もみじから毎晩置いていた様々な品物への感謝を綴る手紙は、半年ほど前に唐突に寄越され、そして途切れることなく続いていた。
侍女長から聞くだけでなく、葵から直接日々の出来事や心情を聞けるというのはなんと素晴らしいことだろうかと感動する。
また、葵からのこちらの素性を伺うような文言には、決して俺だと悟られてはならないと緊張する。
しかし、こんなふうに感情が動くのも久しぶりで、どんなやりとりも楽しく、心温まるものだった。
だが同時に、俺の筆跡では悟られてしまうからと代筆を任せている葵の兄である俺の秘書に、恐ろしいほど嫉妬する。
文通を始めて以来葵が心の拠り所にしている文章を書いているのが俺ではないということに、それを葵が心待ちにしているということに、どうしようもないほど腹の奥が黒く染まる。
たとえその言葉が一言一句違えず俺の口から紡がれたものであろうとも、葵の目に触れるのはすべて俺によるものであってほしいと願ってしまうのは、俺が狂おしいほどに葵を求めているからなのか。
だが、それよりもせっかくできた葵との繋がりを断ちたくないがために、俺は今日も葵のもとに贈る品物を選ぶのだ。
かぶりを振って黒く澱んだ感情を散らす俺に、侍女長の苦々しい声がかけられた。
「当主様、ご無礼は承知で申し上げます。
このようにしきたりに反して文通のようなことを続けては、奥様に再びお会いできる日が更に遠ざかるやもしれませぬ。
当主様が奥様を心底求めていらっしゃいますのは、この桂木(かつらぎ)とて重々承知でございます。なれど、だからこそ、今はお控えいただくべきかと…!」
「うるさい。そんなことはわかっている」
「当主様!」
悲痛な眼差しを送ってくる侍女長がしきたりに煩いのは、すべて俺たちの再会のためだとわかっている。
だが、それでも俺にはようやくできたこのやりとりをやめることができない。
「だから…だから、忙しい合間を縫ってわざわざ葵の兄に代筆させているのだろう…。側近の中で最も忙しい彼奴に、なぜそんなことを頼んでいるか…!すべてはこのやりとりが発覚した時の言い逃れだ…。家族なら…まだ、情状酌量の余地があるかもしれないからな。
---できることなら、俺が直接…。いや、できることなら…、ひと時も離れずそばにいたい…」
「---当主様…」
「…すまない。取り乱した。出て行ってくれ。手紙の返事は後で送らせる」
もの言いたげに静かに一礼して部屋を出て行った侍女長の後ろ姿に一つ大きく溜め息をついた。
母親のいない俺の乳母でもあった侍女長には、どうにも弱いところを見せてしまう。
こんなことではいけないと、気を持ち直して再び仕事に取り掛かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
39 / 47