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愛しい番よ幸せに-玖
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息子のいなくなりしんとした部屋でそんなことを葵に語りかけ、さて最後の段取りの確認だ、と立ち上がった、その時だった。
ただならぬ雰囲気の足音が此処に近づいてくる。
その気配に気付いた俺は即座に“鬼”を作り上げた。
「旦那様、失礼致します!」
普段落ち着き払っている侍女長が返事も待たず扉を開けたことに、嫌な予感しかしなかった。
「簡潔に」
「はっ、若君様が当代を連れ奥様の離れに立ち入られました。気付いた使用人が即座に母屋の方にお戻し致しましたが、どうやら奥様が気付かれていたようで」
「それで」
「廊下の柱の陰から覗いていらしたようで、お身体を冷やされておしまいに」
「熱は?意識はあるのか?」
「とても高く、お休みになっておられます」
訊ねながらも、俺の足は離れへと向かっていた。
「旦那様、まだお時間では…」
「煩い。少し早まっただけのこと。それよりそんなに長いこと寒い廊下に…お前達は何をしていた!?」
「申し開きも御座いません」
深く頭を下げる彼女を横目に、俺は自分の浅慮を恥じた。
浮かれていた。どうしようもなく。
明日葵を迎えてから朱雀に話をするのでも問題はなかった。
いや、朱雀の好奇心をなめていた。
それよりもまず、離れの使用人に葵の保護を徹底させるのが甘かった。
舌打ちしながらも、どんどん離れへと近づいていく。
まだ、廊下に出ただけだからよかったが。
誰も見ていない隙に、自害でもしたら。
誰も見ていない隙に、連れ去られたら。
冷や汗が、背筋を流れるのがわかった。
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