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愛しい番よ幸せに-拾
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離れに半ば飛び込むような形で押し入った俺に一斉に頭を下げる使用人共に葵の様子を聞きながら部屋に急ぐ。
「お休みになっておられます、どうぞお静かに」
到着したところでそんな声がかかり、襖をそろりと音のないよう開く。
あれから一年が過ぎた葵は、暗い部屋の中でもわかるほど、以前よりも随分と健康そうであった。
枕元に坐し額から熱を計る。
顔も朱く息も荒い。
「苦しいな、辛いよな」
もう二度と、独りでこんな目に遭わせないからな。
「だから早く良くなれ、葵」
枕の上に落ちてしまっていた温い手拭を氷水の張った盥に浸け、絞りまた額に載せてやれば、いくらか呼吸が楽になったようだ。
手を握り、声をかけ、手拭が温くなれば絞りなおす。
そんなことを繰り返しているうちに、顔色が大分良くなっていた。
そのことにほっと息を吐いたとき、漸く周りに目を向ける余裕ができた。
葵が倒れたという知らせを受けたときには既に宵の口に差し掛かっていたが、いつの間にか灯された燈が部屋に暖かな影を作り出していた。
その影に隠れた屑入れに書きかけの手紙を見つけた俺は、気付いたらそれを手に取り綴られた文字を追っていた。
『ーーー当代は私と同じなのです。
決して許されることのない想いを眼差しに込めて
それを、自らの口から決して漏らすことなく
封じ込めるしかない私たちのようなΩは
どうすれば当主様を煩わせずに済むのでしょう
いっそこの想いごと消えてしまえたら
この頃、そのようなことばかり考えるのです
私たちのようなΩは
どうしたらよいのでしょうーーー』
嗚呼、葵の苦しみが痛い。
心の奥の底から哀しいと、寂しいと叫ぶように。
常に美しい筆が震え、時折丸く雫で墨が滲んでしまっている。
見えないところで哀しみに包まれてしまう小さな愛おしきものよ。
二度と苦しみも哀しみもないように
真綿で優しく包んでやろう
寂しさを感じる暇などないくらい
蜜のように甘く君に仕えよう
お前はただ俺の腕の中で
しあわせに、生きていてほしいんだ
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