アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
愛しい番よ幸せに-拾弌
-
振り返った先で眠る番の姿に頬が緩む。
「お前が心配することは、何もないよ」
だから安心して戻っておいで。
「早く良くなれ、葵。お前は一度倒れると長いからなあ」
そう声をかけつつ、温くなった手拭を再び変えていた時だ。
触れられた違和感からか、葵がそっと身動いだ。
「…葵?」
「…たか、ひとさ、ま…ぁ……」
顔色が良くなったと言ってもまだ息は荒く、絶え絶えなくせに今にも泣きそうな声の寝言に、手がピタ、と止まる。
「たかひとさま…っ、は、鷹仁さま、お…したい、して、おります…」
お慕い申し上げております、鷹仁様…
小さな口から漏れる言葉の、なんと切なげなことか。
どうしてこうまで哀しげなのか。
永いあいだ、ずっとぎゅっと力の限り押し込めていた想いがついに漏れ出してしまったかのよう。
聞いているこちらの心さえ、引きちぎられそうな声。
ただ、それは同時に、10年ぶりに聞けた声。
たとえそれが、どんなに泣きそうなものであったとしても。
愛おしい唯一からの告白に、腹の底がカッと熱くなった。
己を意識して発された言葉でなくとも。
いや、そうでないからこそ、むしろ。
それが葵の本心なのだと、確信できる。
思いがけぬ告白に熱くなった掌を誤魔化すように、鷹仁は葵の額を優しく覆った。
簡単に掌に収まってしまう、小さな額。
いつかの夜のように、額からつむじまでを優しく撫であげる。
嵐に怯えた愛しい幼子は、腕の中でこうしてやると安心したように眠るのだ。
静かな寝息が聞こえてくると、俺は必ずその顔を覗き込んで、涙の筋がないことに安堵する。
そしてその小さな額に、よく眠れるようそっと口づけたのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
45 / 47