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愛しい番よ幸せに-拾弐
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どのくらい思い出に浸っていたのか。
すっかり穏やかになった葵の寝息を確認して、ホッと息をついた鷹仁は、記憶の中のように口づけようとして、止まった。
近づくとわかる、番の匂い。
これは、良くない。
自覚してしまった己の熱に、うんざりした。
これ以上は、止まらない。
葵には確か、相当強い抑制剤が処方されていた。
だから部屋に入っても、たとえ運命の番でも穏やかでいられた。
だが、肌が重なる距離になってしまうと。
感じてしまう。本能を呼び覚ます、その、匂い。
それはきっと、この男があまりに優秀なことも関係しているのだ。
「普通の」αなら、感じない。
加えてこの匂いは、鷹仁自身が纏う黒方の香りと濃厚に混じり合って彼の嗅覚を襲った。
それはまるで、たった一度交わった、あの夜のような。
2人がぐちゃぐちゃに溶けて一つになってしまったような、官能的な匂い。
ぎりっ…と奥歯を噛み締めて、耐える。
無防備に眠る葵に、あまりにも惨いことを考えた。
離れなくては。一刻も早く。
決して、葵を傷付けては、いけない。
その想いだけで、散り散りになりそうな理性をかき集め、鷹仁は腰を上げた。
やや乱暴に襖を開けてすぐに控えていた女中に母屋に戻ることを伝え、速足に廊下を進んで行った。
突然のことに見送りに奔る使用人を無視して玄関を出たところでようやく、舞降る白いものの冷たさが昂りを落ち着かせた。
細く息を吐き出して、石畳を歩き始めた。
ゆっくりと、努めて無心に母屋へと進む足。
積り始めた雪を踏み締める度、草履がきゅっ、と鳴く。
その音さえもが耳に届くほど。
しん、と静まりかえっていた空気が、揺れた。
荒ぶっていた鷹仁へとは違う、焦りすら感じさせる動揺。
それは、少しずつ大きくなる。
そしてこの一本道を、背後から迫り来る、気配。
ーーーこれは。
先ほどまで感じていた、だが今決してここにあるはずのない気配に鼓動が早まるのを感じ、振り向いた、その瞬間。
「鷹仁様ぁ…っ!!!」
小さく柔らかな衝撃が、鷹仁を襲った。
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