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愛しい番よ幸せに-拾参
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飛び込んできた、小さな影。
「…葵……」
嗚呼、そんなに走って。
息を切らして。
何故、何故己を大切にしないんだ。
お前に何かあったら、俺はーーー!
反射的に受け止め葵の背に回した腕に、ぐっと力が籠った。
「鷹仁様、鷹仁様、鷹仁様っ、、」
「葵…」
だが、そんな想いも霧散するほどに、葵の声は愛おしかった。
そんなに、そんなに俺を求めてくれるのか。
10年も、死にたくなるほどにお前を放置した俺を。
お前は、赦してくれるのかーーー?
幾年ぶりの細い腕は、愛しい番の甘やかな香りは、震える華奢な肩は、ずっとずっと求めていた温もりだった。
永遠に、抱き締めていたかった。
だがーーー。
焦りを含んだいくつかの視線に、冷静さを、取り戻す。
「貴様ら…何をしている」
葵を1人で、雪の中走らせるなど。
怒りの篭った冷たい声に、腕の中の番が震え、こちらを伺ったのがわかった。
怯えさせぬようそっと背を摩る。
「誠に、申し訳ございません…!!さ、先代様…戻りましょう。御御足が…」
「……いや…」
侍女長が土下座しそうな勢いで頭を下げ、続けて葵に戻ることを勧めた使用人たちに、それでも葵は鷹仁に縋った。
「いやです、鷹仁さま…」
「葵」
「っ、せっかく、お会いできたのに…」
「葵、」
「もう、お会いできないのですか…?」
「葵…」
「いやです…鷹仁様、鷹仁さま…」
嗚呼、なんて、可愛い。
侍女長の困惑する様子が視界の隅に映った。
いつまでもこうして、お前に求められていると感じていたい。
嗚呼、だが…。
此処では、冷えるな。
足も…可哀想に、裸足のままで。
俺の、葵の、小さな足が。
手当てしてやらなくては。
「葵、持ち上げるぞ」
「っ、、、!!」
葵の耳元でそっと囁き、許可を得るでもなく抱き上げた。
「いやっ、鷹仁様、離れたくないっ…」
「ああ、もう離れない」
「鷹仁様、鷹仁様…」
「葵、大丈夫だから、部屋に帰ろう」
俺の声は、錯乱する葵には聞こえていないようだった。
だが、もう時間はたっぷりあるんだ。
まずは、温かい湯でお前の足を清めよう。
そしてゆっくり話してやろう。
そんな時間を、漸く手にできたのだから。
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