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第28話
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重たくだるい体を必死に動かし、なんとか家に辿り着いたのはもう太陽が沈んで周りが薄暗くなった夕方頃だったはずだ。
今、何時なんだろう…
乱れる呼吸を整え、カバンに入っている携帯を取り出し、電源を付けると、長坂店長からの10件以上の着信と登録がされていない番号からの着信が2件来ていた。
ロック画面を開き日付を確認すると、あれから丸2日が経っていて、画面の真ん中には22時34分と表示されていた。
どうやらあのまま玄関で倒れ込み2日もこのままの状態でいたらしい。
頭は割れそうなくらいにズキズキと痛み、内側から焼かれてるんじゃないかというくらい身体中が熱い。
何か口にしないとこのまま死んでしまうかもしれない。
倒れ込んだままでいた体に力を込め、這いながらキッチンへと向かう。
ーいや、このまま死んだ方が楽なのかもしれない。
そしたら母さんと父さんにも会える。
苦しい思いも辛い思いもしなくていいんだ。
そう思えばもう体は動かなかった。
もっと。
もっと、愛されたかった。
もっと、大切にされたかった。
もっと、もっと、もっと…
ピンポーン
…何か鳴った?
ユラユラと眩む視界の中、玄関の方に視線を向けると、隣においてあった携帯がブルブルと震えていた。
目を凝らし携帯の画面をじっくり見つめると、ホーム画面から先程の登録されていない番号からの着信を知らせる画面へと切り替わっていた。
いつもなら用心深くそれなりの対処をするが、もうどうでもいい。
着信許可ボタンを押し、この状態でも声が聞こえるようスピーカーオンに切り替えた。
「もしもし真尋?!よかった…やっと出た…。急に電話したりしてごめん、長坂店長に頼んで真尋の連絡先、教えて貰ったんだ。あの日から真尋、ずっと店こねぇから真尋になんかあったんじゃないかと思って。…それに、真尋はもう俺とは話したくないかもしれねぇけど、やっぱり俺はきちんと話したい。…今、真尋の家の前にいるんだけど…真尋、今どこにいる?」
ドアと電話越しに優しくて暖かい、俺の大好きな声が聞こえてきた。
そうか、この電話番号は…
ー思い出せ、俺にはまだ、俺を愛してくれる、大切にしてくれる、そんな人がいるんじゃないのか?
「…けて…助けて大雅…っ!」
バンッ!!
「真尋!?」
泣き叫ぶようにして発した名前の人物が見慣れた琥珀色の髪が揺らしながら勢いよくドアを開いた。
「体…こんなに熱くなって…、辛かったな…もう大丈夫だから」
大雅は今にも泣きそうな顔で優しく笑い、ぎゅぅ…っと真尋を抱き締めた。
温かい腕に包まれ、自然にポロポロと涙が零れる。
甘えて、頼って、傷つけて、自分勝手に大雅のせいにして。
そんな最低な自分をどうして抱きしめてくれるんだろう。どうして笑いかけてくれるんだろう。どうして大丈夫だからと言ってくれるんだろう。
嗚咽を飲み込み、頭いっぱいに広がる「どうして」を口に出来たのはしばらくしてだった。
「……どうして…俺…大雅のこと…ずっと避けて…、話しかけられても…態度悪くして……大雅を傷つけるような…ことも…たくさん…たくさん言った…のに…っ、なんでっ…」
こんな涙でぐしゃぐしゃな顔、誰かに見せたことあったっけ。
それくらい今の俺は泣きじゃくっている。
「真尋を愛してるから。…俺には真尋しかいない。出会った時からずっと、ずっとだ。」
…あぁ、もう敵わない。
誰の一番にもなれない、誰も俺を一番にしてくれない、そう思ってた。
でも。
ー俺には一条大雅がいるんだ。
途端に力が抜け、くたりと大雅に寄りかかる。
ある意味このまま死んでもいい、それくらい幸せだ。
端正な顔を歪ませ、俺の名前を呼ぶ大雅が段々と霞んでいく。
そんな顔しないで、大雅。
そう思い、伸ばした手は大雅の頬に届くことなく、不明瞭になりかけていた意識はいよいよ消え失せたのだった。
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