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ジャイアントと園山。
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①ジャイアントと園山
「お兄さん、俺とイイことしない?」
「っちょおっとっ、なにやってんのぉぉぉぉぉおっ?!」
ジャイアントこと馬場晃一郎はパニクっていた。
ほんの数分前に遡る。
梅雨前線の影響で、ここ数日降り続いている雨にうんざりしながら、馬場は傘をさして帰路を急いでいた。
「っ?!」
「ってっ!」
曲がり角で、出会い頭に誰かとぶつかり、倒れそうになった相手の手を咄嗟に引いた馬場は、反動で後ろに尻餅をついた。
「っ、すみません、だいじょう……ぶ、っ!」
一緒に倒れ込み、馬場の上に乗ったその相手は、とても可愛い顔をしていた。
指していた傘は地面に転がり、倒れ込んだ2人は雨に打たれている。
暫く見つめあっていた2人だったが、我に返った馬場が慌てて起き上がろうとした、その時だった。
可愛い顔が可愛い笑顔で、不意に近づいて、なんと、馬場の唇を奪ったのだ。
「っ?!っっっ!!!」
雨に濡れた柔らかな唇が、ほんのり暖かい。
「っはぁ、…っ、」
離れた唇の端をあげて、不敵に笑ったその笑顔が、馬場の本能に警告を鳴らす。
ヤバイ。捕まったら最後、やられる。
悠介に負けてからというもの、喧嘩はしなくなったが、身体がまだ覚えている。ヤバイ奴の気配を。
背筋がゾクリとして、馬場は足に力を入れた。
「まぁまぁ、そう怯えなくても」
「っ、」
「雨に濡れて気持ち悪いでしょ?せっかく出会えたんだし、」
「っっ、」
「お兄さん、俺とイイことしない?」
「っちょおっとっ、なにやってんのぉぉぉぉぉおっ?!」
冒頭で馬場がパニクるのも無理はない。
だって今、馬場に跨ったその人物が、着ていたTシャツを脱いだからだ。
とても可愛い顔はしているが、気配で男だと分かってはいた。
けど、道端で唐突に服を脱ぎ始めるのは明らかにおかしい。って言うかまず、見ず知らずの男に笑いながらキスする時点でおかしい。
街頭の下露わになった白い肌が青白く浮かぶ。
「っ、ちょっ…」
「あ、俺園山って言います」
「え?!このタイミングで自己紹介?!」
「この近くのアパートに住んでるから、お兄さんおいでよ」
「明らかに怪しい誘いだよね!?行くわけないよね?!」
「はっくしゅっ!」
当然のことながら上半身裸の園山と名乗る男は、クシャミをした。
「もー、意味わかんないけどとりあえず服着なよ!」
「えー、やだ。お兄さんが俺ん家来るなら着る。ってか名前は?」
「強引っ!!強引過ぎるよねキミ!どうも馬場です!」
「アハハ!ジャイアントじゃん!」
「はっ!!この既視感!!2回目!俺のことそのあだ名で呼ぶの!凉じゃん!」
「凉?凉って、朝霧凉?」
「まさかの知り合いーーーー!!!!」
「中学の時の同級生だから」
「ブラック世代ーーー!!!」
「あ、もしかしてゆうちゃんさんの友達の?」
「悠介助けてーーー!!」
「どおりで俺好みの反応♡」
嬉しそうに笑った園山は、やっと馬場から降り、転がった傘を拾い上げて、放心状態の馬場に手を差し伸べた。
「ごめんごめん、ついいつもの癖でさ。いい男見ると誘っちゃうんだよねー。でもゆうちゃんさんの友達なら話は別。ホントに俺ん家近いからさ、おいでよ。とって食ったりしないし、馬場さんのお陰で俺痛い思いしなくて済んだし。お礼、させてよね?」
「…なんで悠介の友達なら別なんだ?」
急に園山から線を引かれた気がして、今までの言動なんてすっかり忘れて、差し伸べられた手を掴んで馬場は疑問を投げかけた。
「…あ、ホントにジャイアントなんだね!」
立ち上がった馬場の背の高さに楽しそうに園山が笑う。
「ゆうちゃんさんと同じくらい?」
「っ、」
白く細い腕が伸びて、馬場の横に手のひらを並べる。
手のひらの先の、何かを見ているその目が、とても切なそうに見え、馬場は咄嗟に園山の手を掴んでいた。
「…家、どの辺?」
「お!やっと来る気になった?」
「いや、送る」
濡れたスーツを脱いで、園山に掛けてやると、園山の持っていた傘を取ってもう1本を畳み、2人で傘に入る。
「…変なの」
「キミに言われたくない」
「…馬場さん、名前は?」
「…晃一郎」
「コウイチロウさんね。漢字は?」
「日と光をくっつけたやつに、数字の…」
「え!俺と一緒じゃん!」
無邪気に笑って見上げてくる園山の笑顔に、晃一郎は急に、胸が苦しくなり目をそらした。
「俺、ミツキって名前で、ミツが晃一郎さんとおんなじ漢字!ちょー偶然!」
「…ジャイアントって呼ばないのか」
「なんで?」
「…いや」
「あ、家着いた」
足を止めた晃輝の視線を辿ると、よく見知ったマンションの前だった。
「え、ここ?」
「うん」
「何階?」
「6階」
「え、何号室…」
「605」
「っっっ!!な、なんで家とは逆方向に向かってたんだ?」
「あ、買い物行くんだった!」
忘れてた!と笑う晃輝に、晃一郎は頭を抱えた。
「あ、上着」
「…また今度でいいよ」
「また会ってくれるの」
目を丸くした晃輝に、晃一郎は暫く悩んでから口を開いた。
「……一週間前に、ここに越して来ただろ」
「えー、そうだけど、何?!超能力?!」
「…違う。」
「?」
「ここ、俺ん家」
「……お?」
晃一郎の指す先を見ると、604号室の所に「馬場」と表札に書かれている。
「おぉっ??!」
「…どうも、お隣さん」
「マジ!?スゴくない?!ってかこれ運命じゃん!」
「っ、…?」
晃輝の、運命という言葉に、晃一郎はなぜ嬉しいと感じるのか、その時はまだ分からなかった。
「ホントに上がって行かない?」
「大丈夫です…」
「変なの」
「いや、だからキミに言われたくない…」
「ミツキ」
「…晃輝」
名前を呼んだ晃一郎に、晃輝は嬉しそうに笑った。
「上着ありがとね、晃一郎サン。」
「そう言えば、買い物って」
「…大丈夫、晃一郎さんのお陰で必要なくなったから」
「っ!」
濡れたぶかぶかのスーツを着て、晃輝は晃一郎に抱きついた。
「おやすみなさい」
「っ、おやすみ」
いつの間にかどしゃ降りの雨は止み、運命の出会いを果たした2人を、雲の切れ間から月明かりが照らしていた。
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