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挨拶
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[side雨ノ宮]
高校教師になって早3年目。
25歳、雨ノ宮 蜜月(アマノミヤ ミツキ)__女みたいな名前だとよくからかわれる俺は、借りたばかりのマンションの一室で、荷物の入ったダンボールを開けていた。
新任として赴任した思い出の学校から異動の内示が出された時、やはりショックが大きかったが教師という職業はそういうものだと開き直り、溜息を吐いて悲しさを飲み込んだ。
以前までは、実家から学校へ通っていたが少し遠い学校__東高校になったため、近くのマンションへと一人暮らしを始めた。
「あ~ぁ、遂に一人暮らしか…」
なんだかんだ仲の良い俺の家族と離れるのは、どこか寂しいものだ。
荷物は全て部屋に入り、ダンボールだらけの殺風景な部屋の中で、来週から担任になるクラスの出席簿を眺める。
1年2組。
高校生になったばかりの奴らの担任は、少し心配だ。
俺自体東高校のことをよく知らないのに、生徒も分かっていないなんて、迷ったらどうする。
「…あ、お隣さんに挨拶しに行かなくちゃな」
デパートで買った菓子折りに『のし』を付けて、軽く身なりを整える。
左隣の部屋は空家だから、右隣へと赴く。
時間は休日の10時。
留守では無いことを祈りながら、インターホンを鳴らした___すると、共に、ドアが開く。
少し焦っている学生…らしき男が、俺がインターホンを鳴らすと同時にドアを開けた。
……それを見て、俺は絶句した。
その男が気持ち悪かっただとか、そういうのではない。服のセンスが悪かったわけでもない。
むしろ、顔は整っていて可愛らしい顔をしているし服のセンスはシンプルかつ格好良い。
__俺が絶句した理由。
それは……お隣さんの部屋の中だった。
見えた玄関からも分かる。
ビールの空缶、ハイボールの瓶…。
色んな種類の酒が、所謂(いわゆる)ゴミ屋敷を形成していた。
…玄関には、人一人が座れるようなスペースが、クッションと共にあるだけだった。
「…すみません、ちょっと退いてください。急いでるんです。」
「え?……あぁ、すみません。
俺、今日から隣に越してきた雨ノ宮です。
つまらないものですが、これ…」
「…失礼なこと聞きますが、中身ってなんですか?」
「は?…っと、菓子折りです」
本当に失礼な事を言う。
でも、菓子折りだと言えば彼の目つきが微かに柔らかくなった気がした。
「そうですか。ありがとうございます。
それじゃあ、急いでいるので」
菓子折りを受け取った彼は、クッションの
上にそれを置くと、颯爽と歩いていった。
「なんだったんだ…」
表札もなくて、名前がわからない。
よくわからない人だった。
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