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こたえ。(篤哉)
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家の窓から灯りが漏れている。
カーテンの隙間を縫って、見える少しの灯りが
俺の希望を表すようだった。
「ただいま。」
と、俺が言う。
すると すぐに
「おかえり。」
と、コウが返してくれる。
胸の奥が、ぎゅうっと締め付けられた。
これ以上の幸せなんか、もう無いように思えた。
歩いていけば、キッチンの方からいい香り。
どうやら、カレーを作ってくれたらしい。
少し前までは、当たり前だった。
コウがここにいて、こうやってご飯を作っていて
お決まりのエプロンで…。
違うのは、きっと。
一人分しか食器が用意されていなかったこと。
こっちを見てくれないこと。
そして、顔が酷く曇っていること。
「あのね、あっくん。
僕、ちゃんと 話したくて来たの。」
いつか 来ると思ってたよ。
コウは、得意だから。
俺の演技と本心を見分けるの。
「あっくん、凛さんのことだけど
番じゃないね、なんでそんな嘘ついたの。」
「そのほうが、コウが俺を諦められるだろ。」
本心で話すよ。君がそれだけ真面目に話してくれるのは
はじめてだからね。
……きっと、これで最後なんだろうけど。
「じゃあ、あの人は誰と番ってるの。」
「MiRORRの、アキラの知り合いで
御門誠さんって人。ちゃんと 挨拶もした。」
じゃなきゃ、凛さんと会わせても貰えないよ。
「どうして、知り合ったの。」
「コウの体のこと、ちゃんとわかりたかった。
だから、オメガの人に聞こうと思って。
程よく 時間を合わせて貰える人に頼みたかった。」
「どうして、僕に聞けばいいじゃん。」
そうできなかった理由は、ひとつ。
ずっと 大切にリビングの棚に閉まってあった
小さな箱を取り出す。
サプライズにしたかったのにな。
こんなことになるなんて、思ってなかった。
「コウに、プロポーズでもしようと思ってたから。
誠さんにプロポーズされたことあるって言うし、
凛さんに相談にのってもらってた。」
「…え」
開いた箱の中にあるのは、もちろん 指輪。
コウの顔が さらに歪んでいく。
「せめて、着けさせてくれないか。
嫌なら、いいんだけど。」
「せ、めて…って」
そんなに、悲しそうな顔しないでよ。
コウは、いつでも笑って居てよ。
…俺の側に居なくてもいいから。
できるだけ、幸せなところで
安全なところで 笑っていて。
「コウ。大きい家具は貰ってもいいか?
さすがに、生活に困るしね…
あ、あいつのところで困ったことはない?
なにかあったら、
いつでも 連絡していいから。ね?」
「そんな、こと…」
コウは 困った顔をする。
コウは優しいから。
俺が無理してるのがわかるから。
放っておくか、それとも慰めたほうがいいのか
考えてるんだ。
…勝ち目が無いのだって、本当は知ってたしね。
「わかった…」
「うん、コウは何も悪くない。
だから、いつも通り笑っていて」
これでいい。本当に、これでいい。
帰ってきて、食器がひとつしか用意されていないので
分かったんだ。
コウが、迷ってること。
そういう時は、いつだって俺が背中を押さなきゃ。
「じゃあ、な。コウ。」
「あっくん、ありがとう。」
――パタン
これで、コウは前に進めるだろう。
大丈夫。
社長にまた怒られればいいだけだ…。
「…くそっ」
こういう時、なんでか海音に会いたくなる。
慰めてなんかくれないって分かってても、
あいつの顔が見たくなる。
…顔がかわいいだけの、悪魔なのにな。
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