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一筋の光
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凜はすぐに「何て図々しいことを言ってしまったんだろう」と後悔し、できることなら今すぐに発言を取り消したいという思いに駆られた。先生は何も言わない。自分と先生の間を流れる時間だけが止まってしまったかと思うほど、1秒1秒が長く感じられた。恥ずかしさで体が火照って、焼けるように熱い。
「あ、あの、」
何とか言い訳してこの場を取り繕うとすると、先生はずっと握っていてくれていた手を離し、カバンからメモ帳を取り出してサラサラと何かを書き付けた。
「.....これ。今日はもう、時間無いから、」
僕に手渡されたメモ書きには、恐らく橘川先生のものと思われるメールアドレスが書かれていた。
「え、ええと、」
僕は癖で思わず「ごめんなさい」と言ってしまいそうになった。パニック障害を発症して、発作を起こす度に「迷惑かけてごめんなさい」「もう大丈夫です」が口癖になってしまったのだ。でも、それは今言うべき言葉にふさわしく無いことは、何となく分かった。
『────〇〇、〇〇です。ご乗車、ありがとうございました』
「....ありがとうございます。帰ったら、すぐ連絡します。今日は、本当に、ありがとうございました。」
先生は「いいから、いいから」と言うように、軽く手を上げて顔をそむけた。
僕は駅に降り立ち一礼して、名残惜しく電車を見送ったが、先生はその間一度も振り返らなかった。
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