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明け方、容態も安定しており、心配なさそうなのを見て取って、山岡は病院を後にした。
久しぶりに真っ直ぐ自分の家に帰り、熱いシャワーを浴びる。
そうして少し仮眠を取った後、出かける支度を始めた。
山岡が帰った後、いつもと同じくらいの時間に出勤してきた日下部は、外来前に病棟の回診に歩いていた。
すでにICUから病室に移っていた川崎のもとへも訪れる。
コンコン。
「おはようございます」
「んっ…おはようございます…」
ベッドに寝転んだまま、目は覚ましていたらしい。
ゆっくりと首だけ日下部の方を見た川崎が、スゥと目を細めた。
「日下部先生…?」
「はい。どうですか?」
パタ、パタと川崎のベッドに近づきながら、日下部は川崎の様子を確認した。
「少しぼんやりします…。痛くはないかな。とにかく眠いです…」
「休めるだけ休んでいただいていいですよ」
「そうですね…。あの、オペは?」
「また山岡の方から説明はありますが、成功と言っていいでしょう」
「取りきれたんですか?」
「えぇ」
「さすが…山岡先生だ…。昨日、麻酔から覚めたときに、会ったような…」
ぼんやりと微笑む川崎に、日下部も微かに笑みを浮かべた。
「多分本物でしょう。昨日はずっといたようですから」
「そうですか…。今日は…」
「休みを取っています」
サラリと言う日下部に、ふと、川崎が不思議そうな顔をした。
「日下部先生、なんでいるんです?」
「え?」
「一緒に行かなかったんですか…」
へぇ?と呟く川崎に、日下部は意味がわからず首を傾げた。
「あれ…?山岡先生、何も言ってないんですか?」
やけに不思議そうにしている川崎に、不思議なのは日下部の方もだ。
「何をです?」
「いや…日下部先生、山岡先生の過去…ほぼご存知なんですよね?」
知らなかったら言えない、と言う川崎に、日下部は頷いた。
「えぇ。聞いていると思います」
「山岡大先生のことも?」
「はい」
静かに頷く日下部に、川崎はふぅっと息を吐いた。
「今日、命日ですよ」
「っ?!」
「有休、取っているんでしょう?墓参りです。毎年必ず」
当たり前のように言う川崎に、日下部は複雑な心境になった。
「お墓に…」
「まだ続いているんですね…」
山岡が大学病院を去ってから今までは、さすがに川崎にもわからない。
だけど今年もこの日に休みを取っている山岡に、変わらぬその想いに、川崎はなんだかホッとした。
「でも…1人で行ってしまいましたか…」
ふぅ、と息を吐く川崎は、少しだけ寂しそうな目を日下部に向けた。
「きっと日下部先生を誘うことなど考えもつかないのでしょうね」
山岡先生らしいといえばらしい、と苦笑する川崎に、日下部の目が珍しく揺らいだ。
「……」
「怒っちゃ駄目ですよ、日下部先生」
日下部の揺らぎが苛立ちだと感じた川崎が、ピッと釘を刺す。
日下部は、スゥッと目を細めて、そんな川崎を見た。
「直接怒りを向ける気はありませんが、腹は立ちます。腹が立って、寂しいですね」
「ははっ…痛っぅ…」
やけに素直な日下部に、思わず笑ってしまった川崎が、腹の痛みに呻いた。
「大丈夫ですか?あなたはまだ術後1日も経ってないんですから…」
「大丈夫です…でも、おれにそんな顔、見せますか?日下部先生ともあろう人が」
不敵に笑っているのが似合う、と笑う川崎に、日下部はさすがに苦笑した。
「だって、普通黙って行きます?昨日オフの話にだってなったのに、何も言いませんでしたよ。そりゃ、現実的に考えて、同じ科で平日に同時に2人も有休取ったらきついのはわかりますよ?だからって、そんな大事な行き先、一言くらい言ってくれても…と俺は思うんですけど」
いくらかムッとしながら言う日下部に、川崎はなんだか可笑しくてたまらなかった。
「拗ねてます?」
「……」
「日下部先生って、意外と可愛いところがあるんですね」
「何を言い出すんです…」
「あぁそうか。そういえば、おれに嫉妬したり、山岡先生自慢してきたり…意外じゃなく、元々可愛かったんですよね」
「山岡絡み限定です」
ふっ、と悪びれる様子なく言う日下部に、川崎は苦笑してしまう。
「ノロケですか、それは」
「ふふ。お好きに解釈して下さい」
「やはり意地悪です。山岡先生、大丈夫なんですか?」
どうみてもSな日下部に、さすがに山岡に同情しそうになる川崎。
「さぁて?まぁ今夜帰ってきたら…こういう場合の恋人への対応の仕方、たっぷりレッスンしてやります」
にやり、と不敵に笑う日下部に、川崎はやっぱり日下部は日下部か、と苦笑した。
「まぁ…あまり苛めないであげて下さいね」
可愛い後輩ですから、と言う川崎は、日下部への誓いをきちんと守っている。
「クスッ。それは山岡次第でしょう?」
「ははは。まぁ山岡先生が選んだんだから何も言いませんが…」
「大丈夫ですよ。たっぷり苛めて、たっぷり甘やかしてやります」
ニコリ。綺麗な笑みを浮かべて平然とのたまう日下部に、川崎は山岡の今夜を思って、胸の中で手を合わせた。
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