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翌日、朝早くやってきた日下部に、山岡はちゃんと目を覚ましておはようと笑った。
ホッとした日下部は、それだけ確認して、外来診察のために病室を出て行った。
午前中、山岡はやってきた精神科のカウンセラーと、ゆっくり話をした。
結局、やっぱり山岡には、昏睡中の記憶はなかった。
「ではまたいつでも声をかけてくださいね」
「はぃ。ありがとうございます…」
ニコリと微笑んで出て行くカウンセラーを見送り、山岡はパタンとベッドに倒れる。
日下部から聞いていたこともあり、大きな混乱もなく、消えた18日間を受け入れていた。
午後は脳の検査を受け、異常がないことが確認された。
その後、シャワーを浴びたり、うつらうつらしたりしてのんびり過ごした。
そうして夕方。
定時も大分過ぎた頃、白衣姿の日下部がやってきた。
「あ、日下部先生。お疲れ様です」
「うん。何?荷物の整理?」
「はぃ。明日退院するので。あの、着替えとか色々、ありがとうございました」
ベッドの横のキャビネットでゴソゴソやりながら、山岡が日下部を振り返ってニコリと笑った。
「うん。まぁ数日は自宅療養で…」
「いえ、仕事に出ます。もう十分休んだみたいですし」
覚えていませんが、と苦笑する山岡に、日下部は苦い顔をした。
「そんなにすぐに復帰しなくても…」
「でもオペの傷も塞がっていますし、悪いところはもうないですし」
「まぁな。でも、病みあがりなんだから、初めはゆっくり肩慣らし程度でな」
「はぃ、それは甘えさせてもらいます」
ニコリと笑って頷く山岡に、日下部は納得して微笑んだ。
「じゃぁ、復帰できるほど元気なら、今夜が最後の夜だし」
ニヤリ、と悪い笑みを浮かべた日下部に、山岡がギクリと身体を強張らせた。
「あの…」
「さぁて、山岡さん?診察するので、ベッドに横になってもらえますか」
ニコリと微笑んでスイッチが入った日下部に、山岡はフラフラと目を彷徨わせた。
「あの、えっと…」
「大丈夫。ここには近づくな、って看護師さんには言ったし、面会謝絶札も下げてきた。鍵もかけたよ。あ、でも防音じゃないからな~。声は気をつけてな」
クスッと笑う日下部に、山岡の目が涙目になった。
「本当にするんですか?」
「そう言ったろ?」
「う…」
「心配かけたこと、悪いと思っているんだよな?」
「はぃ…」
「じゃぁベッドに上がって」
ニコリ。意地悪モードに入った日下部に、山岡が敵うわけがなかった。
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