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「ねぇ、やすくんは何が好き?」
「オレ?特に好き嫌いはないんだけど…」
「ふふ、強いて言うなら、好きなもの、俺の手料理、だよな?」
食堂にやってきた3人が、食券の機械の前で、何やかんやと会話をしている。
「はぁ?お兄ちゃんには聞いてないし。ねぇやすくん」
「あはは…」
「あっ、ハンバーグあるの?」
「あるよ。それにする?」
「ぷっ、お子様にはお似合いだな。俺はA定」
ニヤリと笑って、どの辺りが大人アピールなのかよくわからない定食に決めた日下部が、食券を買う。
「ほら、ハンバーグなんだな?」
「え!ちょっと待ってよ!」
将平の分もお金を入れた日下部が、一応確認するのに、将平が慌てて考え始めた。
それを見ながら、山岡は隣の機械で、呑気に硬貨を投入している。
「オレはオムライスにする。子供っぽいけど、食べたいし、ね?」
ニコリと笑って将平を見る山岡に、将平がホッとしたように微笑んだ。
「お兄ちゃん、ぼくハンバーグでいい」
ニカッと笑った将平に、日下部がチラリとつまらなそうな視線を向けて、ピッと食券のボタンを押した。
トレーを持って、料理が出されるカウンターに向かう。
並んで歩きながら、日下部はふと山岡に向かって口を開いた。
「山岡先生って、意外と子供に懐かれるんだな」
不思議、と首を傾げる日下部に、山岡もコテンと首を傾げた。
「そうですか?」
「うん。子供は好き?」
「まぁ、嫌いではないですね。裏がない分、付き合い易いとは思います…」
まぁ確かに、この年で悪意を持っている者というのはそういないだろう。
「それにしても、なんかなぁ…」
山岡のイメージと違う、と首を傾げる日下部に、山岡はふわりと微笑んだ。
「実を言うと、オレの選択肢には、小児科医というのがあったんですよ」
「え?始めから外科医1本じゃなかったのか…」
てっきり、外科医だけを目指して走り続けてきたものだと思っていた日下部は、意外な山岡の発言に、少なからず驚いていた。
「まぁ、医者を目指そうと思ったのは、ご存知の通り、山岡さんのことがあったからで、だからもちろん山岡さんと同じ外科医で、山岡さんの病気を治せたはずの消化器外科医になるつもりでしたけど」
「うん」
「でも研修医のときに、小児科ローテ、結構長くいたんですよね」
「へぇ、その理由は?」
「施設です」
ニコリと笑った山岡のひと言で、日下部は山岡が子供を苦手としていない理由も、小児科医が選択肢の中にあったわけも分かった。
「なるほど」
「はぃ。オレは医大に行ってからもヤマオカに年に何度かは顔を出していましたし、その後も1年に1度は顔を出すようにしていて…。子供たちとも関わったし、もし小児科医になって、あそこに医院を併設して開業して、医療面でも子供たちを支えていってもいいかな、とか思った時代もありました」
少し照れ臭そうに話す山岡に、日下部の表情が優しく緩んだ。
「そっか」
「まぁ結局、オレは山岡さんの背中を追いかけてしまいましたけど。教授にも拾ってもらいましたしね」
ふふ、と笑う山岡は、その選択を後悔していないようだった。
「お陰で日下部先生と出会えました」
ニコリと計算なく笑う山岡に、日下部は分かっていてもドキリとときめいた。
「本当、天然爆弾」
「なんですか、それ。でも日下部先生は?最初から外科医…ですね」
当たり前か、と笑う山岡に、日下部は苦笑した。
「なんで決めつける?」
「え…なんとなく?外科医じゃない日下部先生が想像がつかないからです」
ふふ、と笑う山岡は、時々鋭い。
「まぁ正解だけど。理由は聞かないで」
恥ずかしいから、と苦笑する日下部に、山岡は余計に食いついてしまった。
「そう言われると聞きたくなるんですけど…」
「だって山岡先生の理由に比べたら、もう本当、言えたものじゃないから…」
勘弁して、と言う日下部に、山岡は綺麗に微笑んだ。
「じゃぁ日下部先生は、オレに出会うために、外科医を選んだんですね」
そういうことにしておきましょう、と笑ってオムライスを受け取りに進んでしまった山岡に、日下部が鋭く息を飲み、その後ヘニャリと頬を緩めた。
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