アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
316
-
「重いですよね。ごめんなさい」
今にも泣き出しそうな顔で、それでもふわりと微笑む里見に、山岡は静かに首を振った。
「背負わせたいわけでは、なかったんですけどねぇ」
「里見先生…」
「それでも、山岡先生なら。貴方なら、黙って受け止めてくれるような気がして」
ごめんなさい、と繰り返す里見に、山岡は深く息を吸い込んで、ゆっくりゆっくり吐き出した。
「オレは…」
「はい」
「オレは、そんな風に期待して、頼りになるような人間ではないですよ…」
スゥと目を伏せて、風に髪を遊ばせたまま、山岡は小さくこうべを垂れた。
「何かの間違いなんじゃないかって。もっとちゃんと詳しく精密な検査をしたら、違う答えが出るんじゃないかって。貴方の病名を、信じられないでいます」
専門外の神経内科医の診断に、ケチをつけるつもりではない。
だけどただ。あまりに酷な病名に。あまりに残酷な診断に、頭が受け入れを拒絶する。
「私も」
「え…?」
「私も。そうだったらいいのにな、って。この診断が間違いで、もっと詳しく、もっと精密に、何度も何度も検査を繰り返したら、違う答えにならないかなって」
あはっ、と笑う里見の声があまりにか細くて、山岡は、他の誰でもない、里見自身が、その病名を受け入れられずに、何度も自問自答を繰り返したんだということが分かった。
「っ…」
「だけど、したんですよ。答えを得るだけの精密な検査は全て」
「っ…」
「何より…何より、私が1番尊敬している、薬学部の先輩が…」
「先輩…?」
「はい。今現在難病とされている、特効薬のない病への治療薬を。未だ、進行を遅らせることは出来ても、停止させることのできない、この病気に特効薬を。誰より、何よりもこの病気について、詳しく、深く理解しているだろう、治療薬の研究、開発についた先輩が…」
「っ…」
「私がきっと開発してみせるからと。間に合わせるから、待っていてと」
「里見先生…」
「きっと助けるから、と」
それだけで、里見が自分の病名を信じるには、受け入れるには、充分だったのだろう。
「私は…」
くしゃりと顔を歪めて微笑んで、ツゥーッと一筋、透明な雫を目から零した里見に、山岡がギリリと奥歯を噛み締めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
316 / 426