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「オレが、オレなんかじゃない理由…」
「うん」
「まではわかりませんが、M総合病院で…急患…。救急車に緊急オペ…」
ポツリ、ポツリとキーワードをなぞり、記憶を手繰り寄せる山岡は、チラリと隣の日下部を見つめた。
「ん?」
「いや…。やっぱり、わかりません…」
ストンと俯いてしまった山岡の背中を、日下部がポンッと叩いた。
「教えてやるよ」
「え?」
「喉まで出かかってるんだろ?」
「それは…はぃ」
「じゃぁ時間の問題だ。もう、教えてやるよ」
ニコリと優しく微笑んだ日下部を、山岡はぼんやりと見つめた。
「とりあえず、昼ご飯を食べに行きがてら、そこで話してやるよ」
な?と言いながら、山岡の背を押して歩きだす日下部。
通りに出てタクシーを捕まえ、2人はショッピングモール側の中華レストランに向かった。
ラーメン、チャーハン、餃子にから揚げと、やけに重そうなものが並ぶテーブル。
山岡はやっぱりなんでも良さそうに、日下部がメニューを選ぶのに任せた結果だ。
「ほら、食べろ」
「な、なんか多くないです?」
「これくらいペロッといけよ。あんな緊急オペ後に。お腹すいてるだろ?」
体力使ったはず、と笑う日下部に、山岡は曖昧に首を傾げた。
「…本当、省エネだよな、山岡」
「あはは…」
「まぁいいや。でも、食べられるだけ食べろよ?」
「はぃ。いただきます」
山岡が小食なことは、日下部は重々承知している。
それでも、共に食事をするようになって、大分量も食べられるようになってきたことも知っている。
丁寧に挨拶をして箸を取る山岡を見ながら、日下部も自分の分に手をつけ始めた。
ズズーッと、イケメンの日下部が、似合わないラーメンをすすっている。
実は美形の山岡は、髪と眼鏡の完全装備状態。
「うぅ、曇って見えにくい…」
ラーメンの湯気で視界がなくなる山岡に、日下部が苦笑を漏らしていた。
「取ればいいと思うけどな」
「うぅ…」
『クスッ。まぁ、明日から、完全に取らせるつもりだけど…』
「え?」
「いや、なんでもない。ノロノロしてると伸びるぞ」
「はぃ…」
ラーメン1杯に悪戦苦闘している山岡を可笑しそうに眺めて、日下部は次々と料理を平らげていった。
そうしてあらかた食べ終わり、のんびり中国茶を啜っている日下部。
山岡も、それほど遅れることなく、出された料理をちゃんと完食していた。
「ごちそうさまでした」
「クスクス。食べられたじゃん」
「え…あ、はぃ。美味しかったです」
何を与えてもその感想なのは承知の日下部。
それでも小さく微笑む山岡の言葉に嘘はないのだろう。
「ご飯をさ…お腹一杯食べられるのって、幸せなことなんだよな」
「え…?」
「いや。さてと。で、どれくらい思い出してるの?」
ニコリ、と微笑んで山岡を見つめた日下部に、山岡は小さく首を傾げて、そっと口を開いた。
「M総合病院…。オレ、多分、1度だけ行ったことがあります」
「ん…」
「あれはそう…たまたまオフだった日の出来事で…」
記憶を手繰り寄せながら話す山岡に、日下部はホッと頷いた。
「うん」
「街でたまたま交通事故に遭遇して…」
「そっか。そこまで思い出してるんなら、答えはすぐそこだな。じゃぁ教えてやる。俺と山岡の出会い」
「はぃ…」
ニコリ。優しく微笑んだ日下部が、日下部にとっては今でも鮮明に目に焼き付いている、その日の出来事を話し始めた。
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