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「山岡センセ」
不意に、ポンと肩を叩かれて、山岡はビクリと身を竦めた。
「なに驚いとんのや」
「っ、谷野先生…。いえ…」
振り向いたそこにいた谷野に愛想笑いを浮かべた山岡に、谷野はスウッと目を細めた。
「なんであの人とおったんや」
ジッと見つめてくる谷野に、山岡はハッとした。
「見て…」
「叔父貴の片腕やろ、さっきの」
へっと吐き捨てる谷野に、山岡は隠しても無駄だと頷いた。
「さっそく山岡センセにちょっかいかけてきたんか。院内でとは、油断したな」
さすがにガードできん、と溜息をつく谷野に、山岡はストンと俯いた。
「谷野先生…あの…」
ポソリと呟いた山岡に、谷野は話を察して、クイッと廊下の先に顎をしゃくった。
「カンファルーム行こか。おれが午後から使う部屋やから、誰も来いひん」
昼も食べなあかんやろ?と、山岡が手に下げた売店の袋を見て、谷野が笑った。
山岡は黙って頷いて、谷野の後に続いた。
この階は、検査室の他に、相談室やカンファレンスルームが主にある階だ。
そのうちのひと部屋に入った谷野を、山岡も追った。
「まぁ座りぃ」
「はぃ…失礼します」
「食べながらでええよ。術衣ちゅーことは、午後からオペなんやろ?」
コクンと頷いた山岡に笑って、谷野も適当な席に座った。
それを見て、山岡がさっそく口を開いた。
「あのっ、谷野先生」
「なんや、勢い込んで」
「お願いがあります」
ジッと谷野を見つめて言う山岡に、谷野はその先を察して苦笑した。
「なんやねん…。山岡センセも懲りないなぁ」
「っ…まだ何も…」
「分かるっちゅーねん。センリの秘書と会うたこと、ちぃに黙っとけってゆうんやろ?」
わからいでか、と鼻で笑う谷野に、山岡の目が丸くなった。
「どうせアレは、叔父貴の呼び出し状でも携えてきたんやろ。行く気か?」
なんでもお見通しらしい谷野に、山岡はギクリとしながらも、迷わず頷いた。
「はぁっ。バレたらちぃに怒られるで」
呆れたように笑う谷野に、山岡は真剣な顔をして頷いた。
「お仕置きは覚悟の上です」
はっきり言い切る山岡に、谷野は困ったように苦笑した。
「それ見逃したら、おれも叱られるんやけど」
それでもか?と言う谷野に、山岡の目がフラリと泳いだ。
「っ…それは…。た、谷野先生は、何も知らなかったことにして下さい。何も見なかった。聞かなかった…」
嘘をついてくれ、と強要してくる山岡に、谷野はその覚悟のほどを悟った。
「あんたみたいなええ人が、人を欺けと言うには、どんだけの思いをすればええんやろな。そないな負い目を背負ってでも、言うか」
「はぃ。せめてオレ1人が罪を負うべきですから」
怒られるのも、もしかして嫌われてしまうかもしれないのも、自分だけでいいと言う山岡に、谷野は諦めたように笑った。
「たまたまこんな階にいるんやなかった」
ははっと笑う谷野に、山岡は申し訳なさそうに首を竦めた。
「でも見てもうたからには、知らんかった振りは無理や」
「谷野先生!」
「せやから共犯になってやる」
ニッと笑う谷野に、山岡は目を丸くした。
「でもそれじゃぁ…」
「まぁ、叔父貴と山岡センセが接触したら、100パーちぃにバレるやろな」
「っ…そしたら…」
「一緒に怒られてやるわ」
ケロッと言う谷野に、山岡の目がフラリと動揺を映した。
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