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日曜日。
日下部と山岡は、日下部の実家だという家に、2人でやってきていた。
「うわ…大きな屋敷ですね。あぁでもそうか。センリの総帥の家ですもんね」
目の前にデーンと佇む洋風の大きな屋敷を目の前に見上げて、山岡がぼんやりと告げた。
「こんな一等地に、こんなに大きなお家…」
「クスクス、山岡さん家だって、それなりのものだっただろう?」
なにせ医学部。その大学教授様の本宅だ、と笑う日下部に、山岡はコテンと首を傾げた。
「そう、ですね。でもやっぱり、桁違いです」
庶民的な匂いが一切感じられない日下部の育った生家は、やっぱりごく一般的な家屋の規模とはまったく違う。
「立派なのもそうですけど、これから…。っ、なんだか、緊張してきてしまいました」
ぐっ、と胸のあたりで拳を握り締めた山岡の頭を、日下部が安心させるようにそっと撫でた。
「大丈夫。俺がいるよ」
これから立ち向かうのは、1人でじゃない。
「はぃ。オレも、いますから…」
ふわり、と微笑む山岡に、日下部が頼もしそうに頷いた。
「うん、心強いね。じゃぁ行こうか」
スッ、と門を開けて、手を差し出した日下部に、山岡はきっぱりと頷いて足を踏み出す。
「はぃ」
深呼吸を1つして、ゆっくりと玄関のドアを開けたその向こうに、優しそうな風貌の女性が待っていた。
「っ、お母様?」
「クスクス、いや、使用人」
「あ…」
「ようこそお越しくださいました。旦那様と奥様は奥でお待ちです」
どうぞ、と綺麗なお辞儀をして出迎えてくれた女性に1つ頷いて、日下部が山岡をエスコートする。
「さ、さすがセレブですね…」
使用人の出迎えにおっかなびっくりしている山岡を見下ろして、日下部が楽しそうにクスクスと笑った。
「自分だって、山岡さんのところに住んでいたときは、こういう暮らしだったはずなのに」
「え?あ、まぁそうですけど…」
「ん。まぁ1人の時の方が長いもんな…」
慣れてはいないか、と笑う日下部が、迷いのない足取りで、屋敷内の1部屋に向かって進んでいく。
「さて、開けるぞ」
それは、どこへ続く扉なのか。
まるでパンドラの箱を開けるような覚悟の滲んだ声で告げる日下部が、廊下の途中にあった1部屋の前で深く息を吸い込んだ。
「はぃ」
例えその扉を開いた先が、どんな苦痛や不幸を噴き出しても、隣に互いがいる限り、必ずひと欠片の希望の光はなくならない。
ぎゅっと唇を噛み締めて、コクンと力強く頷いた山岡を見て、日下部がゆっくりとドアを開いていった。
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