アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
明るい
-
........僕に何ができるのでしょう。
断ってはいけない気がして、ただ機械的に頷きましたが、かと言って何もわからない僕が事を成せるとは思えません。
彼は深い深い溜息をついて目を瞑り、暫くして腰の物入れからナイフを取り出しました。艶のある美しい刃に細かい意匠が凝らされていて、やはりそれも黒くはないようでした。
続けて長い布をそのナイフにくるくる巻きつけて、そうして僕に手渡しました。
使い方は管理者の素行を見てなんとなく覚えていたので、「無くすんじゃないぞ」と言われた時は自信を持って首を縦に振りました。
....それから僕は一気にたくさんの情報を与えられました。
彼の名前は、.....
..................
..........................、
どうも僕は物覚えが悪いようで、こうして頭の中で反芻するにも酷く時間がかかります。色というものの概念とか、存在とか、そういった意味のあることなら、すらすら出てくるのにも関わらず。
「名前なんていうのは記号だ。個体を判別するための印に過ぎん。覚えなくても構わない」
-同じ名前なら?
そりゃあお前、見たら判るんだよ。
-同じ見た目なら?
名前で判るとも。
-同じ名前で同じ見た目なら?
そんなの滅多にないから気にするな。
やっぱり難しいんですね、とぼやくと、彼は噴き出しました。僕は大真面目で言ったのに笑われてしまったので、なんだかモヤモヤと気持ち悪くなりました。
その晩は彼が寝付いたあとにこっそり起き出して、本当に近く、せいぜい数歩くらいの範囲のものの色を思い出すことにしていました。
寝る前にまた酷い咳をしていた彼の近くの地面には、『赤い』液体が点々と散らばっています。それから、壁の色は『白』で、黒い布に巻かれたナイフは『銀色』で....
そうだ、と思わず呟きました。
死んだように眠っている彼の名前をちょうど思い出したのです。
彼を彼だと認識するための印、名前は、アーサーというものでした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 22