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暗黙の齟齬 3
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「な。マゾだろ」
「う、ん………?」
嘲るような進藤さんの声と、戸惑っているらしい神田さんとやらの声。
別に俺はマゾじゃない。
ただあんたの意に添いたいだけ。
そうしてたらいつか愛してくれるんじゃないかって、抱いてくれるんじゃないかって馬鹿みたいに願ってるだけ。
そして、これが好きなだけーーー
と 思っていたら俺の好きなそれは口から抜けていってしまった。
ベッドに腰掛けた進藤さんのそれを追って顔を埋めると、煙草が抜かれる音とライターの音。
煙草吸ってるとこ見るの、好きなんだけど。
こっちを疎かにしたらはたかれるので俺はやっぱり愚直に愛撫を続けた。
鋭く一口目を吸う音と、ふっと吐き出す音、煙の匂い。
ああ、きっと荒んでて冷たい目をしてるはずだ。
「……ケツいじれ」
「………………」
「……勃ってんじゃん」
楽しげな色合いのその声は、俺に向けられたものではないだろう。
俺にはもうちょっと冷たいから。
「神田」
やっぱりそっちの人に言ってたのか、と思ってちらりと目線を上げると。
煙草を挟んだ進藤さんの指先が、どこか俺の後ろの方を示していた。
ーー何してるんだろう。
少し疑問には思うけど今俺には口の中の感触だけが全てだから。
別にどうでもいいや……と言われた通りスウェットの中に手を入れて後ろを解しながら、必死で舌を動かす。
もう、早くこれを入れたい。
「……マジで?」
「んん」
「…………?」
躊躇いがちに腰を掴まれた。
驚いて振り返ろうとすると、進藤さんの手が強く頭を押し戻す。
喉の奥まで急に差し込まれて危うく噛みそうになった。
その衝撃の間に、スウェットを下ろされる感覚。
「んんっ!」
「……うわすげえ、3本入ってる」
「な」
バックルの音が聞こえると、さっと血が下がるような感覚に襲われた。
違うよな、ただの嫌な予感だよな?
「ーーいってぇ!歯ァ当てんな馬鹿!!」
「ごめんなさっ……でもっ、違うよね?進藤さんっ、そっちの人は俺口でするからっーーー」
「しゃぶれ」
「進藤さんっ!」
「うるせえよ、おら舐めろ」
口の端から頬にかけて濡れた先端を押し付けられる。
いつもならご褒美だけど、今は、今はーーー
「進藤さんっ………」
「3本入ってりゃいいだろ。神田入れてみ」
「嫌だってば!!!」
「お前に決定権なんかねえんだよ」
「ーーーーーーっ」
熱くなっていた頭から、また血の気が引いていく。
その冷えた頭を、口の端に煙草を咥えた進藤さんが虫でも見るみたいに見下ろして、両手で強く掴む。
呆けている間にまた股間に押し付けられた。
喉の奥を突かれて息も出来ない。
その内今度は腰を両手で掴まれた。
「ごめんねコータ君、俺ももう我慢できねえわ」
「…………………っ!!んぐ、んーーー……!」
「てめ噛んだらぶち殺すからな」
「んんんぅ…………!!!」
「あ、凄え……」
遠慮も配慮も何もなく、神田のが入ってくる。
入ってくる。入ってくるーーーー。
「んーーー……!!!」
「……なーこれ相当嫌なんじゃねーの、俺めっちゃ押し戻されてんだけど……」
「そこに入れんのが?」
「良いんだけどさ、ってお前。言わすな、思ってねーよそんなこと」
「んん………!!」
苦しい。
乱暴に頭を動かされて息も上手く出来ない。
その間にも入れたくないモノは入ってくる。
ーーああ。
(嫌だな…………)
苦しすぎて涙が出て、余計に苦しくなる。
目の前が靄がかっていって、思考回路がぷつぷつと切れていくのが分かるようだった。
ただ残ってるのは、この人相手にはもう麻痺してしまったはずの、傷ついたような悲しい気持ち。
意地悪なんか一度も誰にもされたことのない、無垢な子供に戻ってしまったような。
「うわすげえ、中グニッグニ……」
「へえ、まじで?」
「いや拒否られてんだろうけどさこれ」
「ふーん………」
ーー別にそんなつもりはないけど。
体が勝手にそうしてるんなら、やっぱり俺は傷ついてる。
そして、人をそんな気分にさせることで進藤さんは興奮する人だ。
「んっ……………、」
喉の奥にどろどろと流れていく液体を、咽かけながらなんとか飲み込んで必死で呼吸を整えた。
おかしな飲み方をしてしまって咳き込みまくっていると、待ってましたとばかり神田が腰を振り始める。
痛くも、気持ちよくも、なんともないんだけど。
やっぱり体は心から離れてしまっているようだった。
喉が勝手に思ってもみないことを喋る。
「……進藤さん、ひどい」
「………………」
「ひどい。ひどいよ…………」
「………………」
「こんなの。俺ーーー」
思う存分咳き込んで、腹の底まで呼吸して、もう苦しくはないはずなのにまだ涙が出た。
やっぱり体が馬鹿になってる。
いつの間にか神田が腰を振るのをやめたのも、それどころか抜いてたことにも気付かなかった。
「ーー分かってんだろう!俺は!あんたに抱かれたいだけなんだよ!……こんなの!」
「…………………」
ーーそこまで喚いてしまってからやっと、体は心の言うことを聞いた。
けどもう遅いんだよ馬鹿。
あんなこと言ってしまってはもう、進藤さんはーーー
(……もう会ってくれない)
今度こそ、ちゃんと心が悲しんだ涙が出た。
「………あっそう」
滑稽なほど肩が縮んだ。
もう、終わりだ。
だったら好きです大好きですって言ってもいいだろうかーーーー
「ーーじゃあもう来んのやめるか?俺」
「ーーーーーー!」
ーー進藤さんは想像と少しも違わない、心底冷めたつまらなそうな顔をしてたけど、「もう来ない」じゃなかった。
それだけでその表情が慈悲に満ちた優しい顔に見える。
嬉しくて嬉しくて必死で首を振ると、「ハァ?」と訝しく顔を歪められた。
「なんでそこで笑うんだよ。気色悪ぃ」
「……笑ってますか?俺」
「ニヤニヤすんじゃねえよ」
「すみません」
だって、来ないとは言わなかったことが嬉しくて。
なんて言ってしまったら「じゃあ来ない」になるのは目に見えてるからーー
気に食わないらしいこの顔を、とりあえず俯けておく。
「ーーじゃあ、続けろよ。神田にちゃんと謝れ」
「え、いいです」
「ごめんなさい……」
「ほんとに謝んのかよ俺どーしたらいいんだよ!もう!」
一人滑稽におたついている神田を顎で俺に指し示して、「で?」と進藤さんは言った。
「………………」
「おら」
「……神田さん」
「えっ」
「入れて下さい。」
「うそぉ〜……」
それはただ進藤さんに繋がることだからしてるだけで、特に何の感情もない。
敢えて言えば淡い淡い、ほとんど水みたいな期待だけ。
そうして大人しく待ってる俺を、進藤さんは喉の奥で笑った。
「萎えたか?」
「いやもうなんでかギンギンですけど」
「お前も変態だよなぁ」
「否定はできかねるー」
そう言いながらまた俺の腰を取ると、神田は相も変わらず拗ねたようなおちょくったような口を利く。
「コータくぅん、ほんとにこんなの好きなの?俺もっと優しいよ?」
「………………」
ーーまた進藤さんが笑った。
機嫌が良さそうだから、なんでもいいや。
暗黙の齟齬 終わり
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