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第一章~高校2年生・春~8
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「谷地島、久我と教室でて。」
「氷野くん?」
「彼方?なんで…」
谷地島の声がして、いつの間にか近くにきた彼方に腕を掴まれて。
そのまま俺を久夜から引きはがした彼方の腕に後ろからすっぽり包まれる。
「さすがに今のは我慢できないんだけど。
お前、梁瀬に何してんの?
お前が久我と喧嘩しようが心底どうでもいい。
勝手にやってろよ。
…けど、梁瀬への態度は考えろ。
お前、恋人の声も聞こえないほど馬鹿なわけじゃねーだろ。」
「、…」
「梁瀬、とりあえず保健室行こう。
目、腫れたら困る。
久我と話し合うのとかは勝手だけど…周りの迷惑くらい考えろよ。」
「あっ、彼方…!待って!」
抱きしめられていた腕を解かれ、自由になれたかと思えば、すぐに腕を掴まれ彼方に引っ張られる。
久夜はうつむいてて、その表情は分からなかった。
「久我、お前は悪くないと思うけど…まぁ言動には気をつけろ。
あいつのことに関しては、お前の方が俺より分かってるだろ。
谷地島も、仲裁押し付けてごめん。涼本もどうにかするだろうけど…悪い。」
「……」
「それはいいけど……」
谷地島と久我君にも声をかけて、それでも彼方はすたすたと歩いていく。
迷うことなく真っ直ぐに保健室に向かった彼方は、俺をベッドに座らせて、1人アイシングを作ってた。
「これで、しばらく押さえときな。」
「…ありがと。」
「別に。ちょっとあいつの行動に苛立っただけだから。」
向かい側に座った彼方は何を言うでもなく、俺の瞳を見つめる。
俺、見つめられるの苦手なんだよな…
「久我君に悪いことしちゃったなぁ…後で謝らなきゃ…」
「相変わらずだな。何か言われたんじゃないのか?久我に。」
「違うよ。久我君が中学の頃の話をしてて、そこで久夜の過去の話聞いて、少し悲しかっただけ。無意識に泣いてた俺を、久我君は心配してくれただけ。」
本当にそれだけだったのに。
…なんで久夜はあんなに怒っていたんだろう。
久夜が全然分からない。
「ふーん、久我は本当にとばっちりを受けただけか。」
「久夜は、なんで…」
「単純に梁瀬のことが心配だっただけだろ。で、いざ帰ったらお前が泣いてて相当頭にきたんじゃない?知らないけど。」
…それだけで、久夜はあんなに?
違うと思う。もっと他にある気がするのに…
…久夜に会うの、ちょっと怖いな。
いつもの優しい久夜はやっぱり俺のためだったのだろうか。
久夜の冷めた表情を思い出す。
……怖かった。
俺の知らない久夜みたいで。
「……」
「しばらくは保健室にいた方がいい。なんなら寝れば?リセットすんの大事。」
「そう、しようかな……」
アイシングを目にのせたままベッドに横になる。
…磯貝先生の授業サボるのちょっと申し訳ない。
でも、なんだか疲れた。
少しだけ、一時間だけ寝よう。
ねぇ、久夜……俺は久夜のこと、もっと知りたいよ…
怖くても、くれた優しさは嘘じゃない。
久夜の隣はいつだって暖かいから。
俺はずっと、そこに立っていたいんだ。
ずっと、一緒にいたいんだよ。
「ひさ、や……」
「……おやすみ、梁瀬。」
アイシングで冷やされた瞳から、涙が零れた。
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