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8 (R18)
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期待と喜びに膨れ上がった想いが、一気にぎゅっと収縮する。
今「終わりにしよう」っつった久保田の顔は、最近ずっと「もうやめよう」って言い続けてた時と同じだった。
昨日まではそう言われても当たり前だと思ってたし、何言われたって突っぱねる気満々だったけど……両思いだって確認し合った直後だけに、ダメージがデカい。
一瞬、まばたきすらできなかった。
「……は?」
我ながら、思った以上に動揺してたらしい。声が震えた。
「どういう意味っスか? あんた今、オレのこと好きだって言ったよな!?」
「好きだよ」
掠れた声でうなずく久保田に、ぶわっと怒りが沸き起こる。
「好きなのに最後にしよーとか、意味分かんねぇ! 何だよ、オレを弄んで、何が楽しーんだよ!?」
「弄んでなんか……」
「弄んでんじゃん! 好きだっつったり、やめようっつったり! オレのことを『遊びなのか』って責めといてさぁ、その口で何言ってんの!?」
横たわる久保田に覆い被さり、怒鳴り付ける。久保田は眉を下げて、また困ったみてーな顔したけど、発言を撤回しようとはしなかった。
逆に、真面目な顔で諭された。
「好きだから、大事にしたいんだ」
って。
「今のまま、ずっとこういうの続けてたら、きっといつかどっかでバレる。バレたら、ホントに終わりになる」
一瞬反論が浮かばなかったのは、それが正論だって分かったからだ。
けど、正論だろうと何だろうと、納得できねーし認めたくねぇ。せっかく、ようやく手に入れたばっかの幸せを、あっさり手放したりできなかった。
「……んな簡単にバレねーっスよ」
久保田から目を逸らし、ぐるぐると考える。
終わりになんかしたくなかった。何とかして、コイツを言い負かしたかった。口で負けるなんて思えなかった。
「バレるよ。オレはバレない自信ない」
淡々と告げられるオトナの意見に、モヤモヤが募る。勝手に決めつけねーで欲しかった。
「気ィつけりゃいーじゃん」
ぽろりと漏れた反論に、久保田が静かに首を振る。
くったりと横たわってた体を気だるげに起こし、「隼人」ってオレを呼ぶ久保田。
んっ、と息を詰める様子には、まださっきの情事の名残があんのに。甘ったるい雰囲気は霧散して、裸でいんのが寒々しい。
「遊びじゃないんなら、もうやめよう」
静かに告げられても、反発しかなかった。「意味分かんねぇ」って突っぱねて、年上の恋人の忠告から耳を塞ぐ。
ただ、「遊びならいーんスか?」とは冗談でも訊けなかった。
「……だったら、これからどーすりゃいーんスか?」
ガリ、と頭を掻き、久保田のいねぇ「これから」を思う。
「勉強して、野球して、淡々と日常をこなして? アンタがまた他の誰かに手を伸ばし、笑みを向けんのを遠くから見てろって? そんな未来の、どこが楽しーんだよ?」
叩きつけるように問いかけると、なんでかふふっと笑われた。
意味が分かんなくてムカつく。大人の余裕みてーにも見えて、余計にムカつく。
「隼人は若いなぁ」
にっこりと笑みを浮かべたまま、軽く頭を撫でられて、それも悔しくて腹が立った。
「どーせガキだよ」
ちっ、と舌打ちして頭を撫でる手を払い落すと、今度はぎゅっと抱き着かれた。
ふわっと香る甘い汗のニオイに、不覚にもドキッとする。
「そういうとこ、好きだよ」
抱き着きながらそんなこと言われて、またそれにもドキッとした。
弄んでんのはどっちだよって、やっぱ言いてぇ。気持ちをぐっと鷲掴みにされたまま、ぶんぶんと振り回されて悔しくなる。
「好きだから、卒業までやめにしよう」
とか。
永久におしまいって訳じゃねーならマシだけど、そんな卒業なんてまだまだ先で、想像つかねぇ。喜べねぇ。
だったら「終わり」じゃなくて、「お預け」だろ。日本語ちゃんと使えっつの。授業はまともなのに、なんでそんな言葉の選び方が下手なんだ?
浮かれてた気分をズドンと落とされ、またちょっと浮かばされて。これが振り回されてねーなら、何なんだ?
「卒業して、そんで、隼人がまだオレのこと好きって思うなら、付き合おう?」
一緒に住んでもいいねって、こそりと小声で付け足され、胸の奥が熱くなる。
オレの気持ちがどうとかって、結局オレのこと信じてねーんだなって気がしてスゲー悔しい。
「何ソレ? 心変わりするとか思ってんの?」
思いっ切り不機嫌な声で訊いてやると、困ったように眉を下げる久保田。
「イヤ?」
「イヤだとは言ってねーだろ!」
キッパリと答えて、目の前のうるさい口をキスで塞ぐ。
強引に舌をねじ込み、甘い口中を舐め回しながら押し倒すと、久保田は「んっ」と小さくうめいて、ふうっと体の力を抜いた。
「1年半お預けさせたら、オレが忘れるとか思ってる? 甘ぇから!」
上から覆い被さり、白い喉を舐め上げて、久保田の引き締まった胸元をまさぐる。
ない胸を押し撫で、片方の乳首に食い付き、乳輪ごと噛み付くと、久保田は「ああっ!」と高く喘いで、オレの首元に腕を回した。
予想以上に強い力で巻き付かれ、悪い気はしなかった。
「忘れられたら、悲しいな」
って。上擦った声でぼそっと言われて、ほんの少し嬉しい。
久保田のモノがいつの間にか固くなってんのに気付き、胸がじわっと熱くなる。
やっぱ「バレたら」みてーな仮定の話を持ち込まれんのは納得いかなかったし、ムカつくのには変わりねぇ。オトナにとっては1年半なんてすぐなのかも知れねーけど、オレには長ぇ。
我慢しなきゃいけねーのかと思うと、絶望がよぎる。
オレが好きでも、久保田が心変わりする可能性だってあんのに。そうなったらどーすんだ?
ああ、でも、もしそうなったら、また奪えばいいってコトなんだろう。
こんなオレが好きだっつーんなら、当分お預けに甘んじたとしても、オレ自身が変わる必要はねぇ。
「ちょっ、待っ……」
脚を割り裂くと、焦ったように制止されたけど、遠慮する気にはなれなかった。少し渇きかけてた体腔をローションで濡らし、「いい?」とも訊かねーまま強引に貫く。
「あっ、隼人……っ」
久保田の口から上がる声は、まだ甘さを十分含んでて、耳も気持ちも満足させる。
恋人から教師に戻る訳じゃねぇ。オレの一方通行に戻る訳でもねぇ。
ふっ、と笑いながら腰を揺らし、ローションを中に馴染ませる。熟れて蕩けたオトナの男の体腔は、すぐにさっきの熱さを取り戻し、粘膜のひだがきゅうっとオレにまとわりついた。
高く甘い嬌声を楽しみながら、これからの1年半をどうしてやろうかと考える。
まずは――。
「なあ、最後にすんの、オレの誕生日でいー、だろ?」
小刻みに揺すり上げながら、頬に額にキスを落とし、快感に潤んだ目を覗き込む。
「それまでちゃんと、我慢すっから」
ニヤッと笑いながら申告し、少しずつ抜き差しのスピードを上げてくと、久保田は「んっ?」とか「えっ?」とか口にして、ためらうようにオレを見た。
ああ試合開始だ、と思う。
ブレイクなのかプレイボールなのかは分かんねーし、どっちでもねーのかも知んねーけど、勝負だ。
誕生日の後はクリスマス。その後はバレンタイン? プレゼントにデートをねだり、「特別に」ってセックスをねだろう。約束が違うって怒られたって、そん時はそん時。
卒業後の未来を、投げ捨てるつもりはねぇ。けど、卒業まで大人しく待ち続けるつもりも、もうなかった。
(終)
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