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強化合宿がはじまります
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「秀!」
電車を乗り継いできた、祐也と敏行と真と滝の四人が、電車を降りて秀を見付けた。
秀は祐也の気配でわかっていたのだが。
四人に向けて、フワッと笑った。
「お疲れ様」
そう言って、荷物等を乗せるように、後ろを開ける。
「ちょ、秀着物?」
簡単な着流しだが。楽なのでそのままでいたら、時間が来てしまい、慌てて出て来たのだ。
「着物というか、浴衣だな」
真が言う。間違いではない。
「楽なので、つい」
そう言う秀は、学校にいる時と比べると、かなり気を緩めている。
先程四人に向けた笑顔も、気が緩んでいるからであろう。
「浴衣の秀君、めっちゃ良いわぁ」
呟いた滝に、ボスっと敏行の鞄が当たる。
「あ、すいません。手が滑りました」
ワザとらしい、棒読みの敏行。
「いったいやん」
文句を言っているが、そのまま車に押し込められて、運転席の秀からは遠い席に座らされる。
「敏の俺の扱いが、だんだん雑になってへん?」
隣に乗り込んできた敏行に、文句は続いているようだ。
「普通です、普通」
敏行はそんな滝を流している。
真は二人の前の席に座ったが、裕也は助手席に座っている。
「草履?運転しにくくない?」
「慣れたら別に平気だが」
秀の履物を見て、祐也が言うのだが、秀は不便さを感じていないようだった。
というか、浴衣で運転も、考えてみたらしにくそうだが。まぁ、慣れているのだろう。浴衣が楽だからそのままだった、という秀の言葉を先に聞いた。
後ろの敏行と滝が騒ぐので、あっという間に民宿に着いていた。
「可奈さん」
「はいはい。まぁまぁ、坊ちゃま。そのままで、お出かけになられたんですか?」
「良いから、部屋の鍵」
秀が、出て来た女将さんだろう人と、話しをしている。
坊ちゃまって……。
敏行と真と滝は、秀が霊安寺を知っていて、懇意にしているだろう予想はしていたのだが。
「はいはい。ちょっとお待ちなさいな」
そう言いながら、民宿の中へと入って行く。その人の後を追うように、秀も入って行こうとして、足を止めた。
「どうか、しました?」
四人が固まっていたからだ。
秀には普通のことなので、何か不思議なことがあっても、わからない。
「なんでもない、なんでもない。行こう」
敏行はそう言って、秀を促す。
秀は首を傾げていたが、まぁ良いかと、四人を案内する形で、中へと入って行く。
「はい、二人部屋が二つ。手配されてた俺の分は、勝手に無くしたので」
鍵を二つ、手に持って秀はそう言う。
「ん?秀はどこで寝泊まりするんだ?」
真の問いに、秀は民宿の裏手を差す。
「裏に霊安寺があって、俺の部屋、そこにあります」
元から、祐也には話しをしてあった。祐也は不思議ではないけれど、他のメンバーには不思議だろう。
「へー。他のバンドの人たち、着いてる?」
敏行が、話しを逸らす。秀が霊安寺に部屋があることを、あまり突っ込んで聞かれたくはないだろう、という配慮だ。
「まだ、誰も。行きたかったら、スタジオ行けるようにするけど?」
秀が出かけている間にも、着いたメンバーはいなかった。
もしかしたら着いていても、海で遊んでいるかもしれないが。民宿に着ていなければ、秀にはわからない。
「すっごい今更な質問なんだがな」
真が言い出す。秀は真に視線を移した。
「何で寺が民宿やってて、スタジオの完備もされてるんだ?」
それは、四人とも不思議なことである。
部屋まで案内しながら、秀は軽く答えた。
「元々は、民宿だけだったんですけど。亜沙斗さんのお姉さんの水琴さんが、インディーズでレーベル立ち上げた時に、学生が簡単に使える民宿を探した結果、ですね」
「んん??」
意味を、飲み込めない。という四人に、秀はえーと、と考える。
「水琴さんは、学生が簡単に利用できる民宿で、音楽性の高いバンドを育てたかったんですよ」
たしか、そんな感じだったよな、と秀もしっかりと把握できていない話しらしい。
「へー、それはたしかに俺らには、助かる話しだよね」
祐也がそう言って、その時には、部屋に着いた。
「この部屋と、この部屋。二人部屋なので、そこまで狭くはないと思うんですけど。民宿の内装は、俺はよく知らないので」
そう言って、片方の部屋を秀が開ける。
「さて、部屋割りだが……」
「俺は祐也とが良いです!」
言いかけた真に、敏行が被せるように言う。
「待て、それは俺がコレと一緒の部屋になれ、ということか」
真も敏行も、滝と一緒の部屋が嫌だ。という意思表示らしい。
くつくつ笑っている秀は、やはりどこか気を緩めているようだ。
「一回生同士、二回生同士の方が、面倒じゃないですよね?」
そう言う祐也も、滝と同室は嫌らしい。
「お前ら、そんな俺の前で堂々と……」
よよよ、とか泣きまねをしている滝は、無視らしい三人は、結局じゃんけんで決めることになったらしい。
「んじゃ、勝った者同士、負けた者同士な」
秀は見守っていただけだったが。滝と同室になったのは、祐也だった。
「何故だ」
ボソリと呟く祐也に、秀が近寄り耳元で、誰にも聞こえないように言う。
「俺の部屋、来てても良いぞ」
と。
祐也は秀が夜には魂鎮めをすることを知っているので、夜に行った所で秀がいないとわかっている。
それでも、その言葉は嬉しいモノだった。
「ちょお、待ち。今のはわかった。俺はわかった。夜に祐也、秀君の部屋行くつもりやろ」
目ざといというか、何というか……。
「従弟もいるんで。祐也が来てもさほど変わりません」
秀はそう答える。
太一と純は客間にいるのだが。というか、夜に来ても自分はいないのだが。滝に当てられたことが、少し気恥ずかしい気もするので。
秀は平静を装って答えている。
「じゃ、祐也が滝と同室決定だから。俺と敏はもう一つの方に荷物置きに行くか」
そう言って、一端真と敏行が部屋を出て行く。
このまんまの状態で、三人にしないでー、とは祐也の心の叫びだが。二人に届くことなく、三人になる。
「えーっと……」
ちょっと困り顔なのは、祐也だ。
だが、そんなことは気にしてません的な秀が、全く別の話しを振る。
「スタジオ、行くのか?」
そういえば、そこはさっきも秀に言われたが、まだ返事をしていない。
行けるなら行きたい気持ちは、祐也にはあった。
「俺は、行けるなら、行きたいわ」
滝もそう言う。
祐也も同じだというように、頷いたので、秀は真と敏行も行きたいと思うだろう、と考える。
「そいや、ここって、第一と第二があるじゃん?どっちが使えるの?」
二部屋あるスタジオ。
ちなみに、第二の方が広い作りになっていることは、秀は知っている。
「第一の方。第二は太一たちが使ってる」
曲作りをしてるとかなんとかで、朝からずっと入っていた。
そういえば、夜も夜中までやっているようだったが。休憩とか取っているのかとか、全く気にもしていない秀だ。
太一たちのバンドは、先出の亜沙斗の姉の水琴のレーベルから、インディーズデビューが決まっているので、当然として第二スタジオを使っている。
「向こうの部屋も、こっちと変わらなかった」
そう言いながら、敏行が戻って来た。真も続いている。
敏行は、しっかりギターを持っているから、スタジオには行く気だろう。
祐也と滝も楽器を持ったので、秀はまた先導する形でスタジオへと向かう。
ロビー方面へは向かわず、民宿を突っ切る形に歩く。
「秀、秀」
敏行が、祐也とは逆の隣に来て、秀の気を引く。
「何だ?」
秀が首を傾げて、敏行を見た。
「皆がいる前で、大胆に祐也誘ったら駄目だよ。とくに滝さんが反応するから」
なんて、敏行は言ってくる。
「なっ……」
そういう意味に、取られていたのか、と秀が絶句している。
「あれ、そういう意味じゃなかったんだ?」
「違う」
敏行に、断固として違うと言ってはいるが、その秀の顔は真っ赤だった。
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