アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
タイムカプセル #1
-
「ね、智、知ってる?」
「なに?どしたの?ジュン君。」
通学途中の智は、淳一にランドセルを掴まれ振り返る。
夏の日差しもこの時間なら、まだ柔らかい。
朝の清々しい風が智の髪をなでていく。
「この川のず~~~~~っと向こうにさ…。」
「おはよ!」
淳一が振り返ると、雅範が笑顔で走ってきた。
「なに?なになになに?」
雅範はつぶらな瞳をまん丸にして、おもしろそうに二人を見比べる。
「なにかあるんでしょ~。」
「な、何もないよ。」
淳一がプイッとそっぽを向く。
「なに?俺には内緒なのぉ?」
「そんなこと…。」
智が言いかけた時、ドンと何かが智に体当たりしてきた。
「うわぁっ!」
「おっはよう智!」
和哉が智の右側にタックルしてきたのだ。
タックルしたまま、智の腰にくっついて離れない。
「おはよ。…カズ、それじゃ、歩けない…。」
「おもしろいから、このまま学校行きましょう。」
和哉は智の腰に腕を回したまま、ニッコリ笑ってウィンクする。
「智が歩きづらいって言ってるじゃないか。」
曲がり道で智達を見つけた修が、走ってきて和哉の腕を引き離す。
「あんたに言われる必要ないね!」
「智がイヤだって言ってるんだよ!」
和哉と修が二人でいがみあっていると、
「まぁ、まぁ、落ち着いて…。」
雅範が二人の間に入っていく。
しめた!とばかりに淳一が智の肩に手を回し、耳打ちする。
「この川のずっと向こうに、竜の木があるんだって。」
淳一はニヤッと笑って智を見る。
大きな川の流れる町に智達は住んでいる。
小学校の裏にある公園は、智達のいつもの遊び場だった。
そこから5分くらい歩くと、大きな川に辿りつく。
川沿いの道は智達の通学路にもなっていた。
その川の両脇には土手があり、ここも格好の遊び場だ。
芝をランドセルで滑り降りたり、虫を探したり。
智達5人は幼稚園からの幼馴染だ。
今は小学校3年生。
彼らにとっては、人生の半分以上を一緒に過ごしてきた、家族みたいなものだ。
性格も好みも知り尽くし、なんかいつも同じだなぁと思いながらも、
毎日一緒に遊んでしまう、そんな仲間だった。
淳一はお兄ちゃんがいるせいか、
みんなよりちょっとませていて、情報通だった。
「竜の木?」
智が聞き返すと淳一はシーっと口に指を当てる。
「みんなに聞こえるだろ?」
「みんなに聞こえちゃいけないの?」
「ダメだよ。二人でこっそり行くんだから。」
「行くってどこへ?」
「竜の木だよ。」
淳一は悪戯っ子のような目で、智を見ると、ニヤっと笑った。
「あ~!ジュン君、智に何言ったの~?」
二人に気づいた雅範がやってくると、淳一は知らん振りを決め込む。
淳一の態度に頬を膨らませた雅範は、淳一の反対側から智の肩に手を回す。
「ジュン君に何言われたんだよぉ?」
智よりちょっと背の高い雅範は、智を抱き込んだ。
引き離された淳一は、雅範の背中越しに叫ぶ。
「あ~、ダメ!智、言っちゃダメだかんな!」
その声に和哉と修も反応する。
「何?なんの話ですか?」
「智、何?ジュンに何か言われたの?」
二人は智を囲んで離さない。
「ほらほら~。みんな知りたいんだからさ、言っちゃってよ。」
雅範もけしかける。
「ダ~メ~!!俺と智の秘密だかんな!」
「あ~ジュンの秘密主義!」
和哉が大声で非難すると、残りの二人も続く。
「そうだ、そうだ!内緒話はいけないんだ~!」
雅範が耳元で怒鳴るので、智は耳が痛かった。
「智はみんなで一緒の方がいいよね?」
修は優しく智に語り掛けるが、その言葉は有無を言わせない。
「おいらは、どっちでもいいんだけど…。」
「ダメ!言っちゃダメ!」
そう言って、淳一は智の手を掴むと学校に向かって走り出した。
「あ、ちょっと!」
和哉がすぐさま追いかける。
雅範、修もそれに続いた。
ランドセルがガシャガシャと鳴り、給食袋がちぎれそうに揺れている。
5人にびっくりして、道を避ける生徒を尻目に、
智達は学校の門をくぐっていった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 16