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タイムカプセル #6
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自転車は公園から土手に向って走り始めた。
ほどなくして、土手の脇に着くと、
5人は気持ちがいいという理由で、土手の上を走ることにした。
土手の上は何もさえぎる物がなく、青い空がどこまでも続く。
行く手には大きな入道雲が待ち構えている。
「ジュン、道、聞いてきた?」
修がリュックの中を探りながら淳一に言う。
任せろと言わんばかりの顔で、淳一が鞄から紙を取り出す。
その紙をみんなの前に広げると、そこには、
とても上手とは言えない絵と線が書かれていた。
「兄ちゃんに書いてもらったんだ。」
淳一は得意げに説明を始める。
「コレが今いる土手だろ?で、ず~っと真っ直ぐ行って、鉄橋を5つ超えて、
角にコンビニがあるところをこっちに曲がって…。」
「え~、鉄橋5つも~?結構遠いよね。」
雅範は遠いと言いながら、嬉しそうに話す。
「コンビニ見つければいいの?」
智がニコニコしながら淳一の顔を見る。
「そ!その先はすぐだって。」
「まずは鉄橋5つかぁ。」
修はコンパスを取り出すと、現在の方角を確認する。
「え?この地図にコンパス、必要ないじゃん。」
和哉は修に向って突っ込むが、修は全く気にせず、
「北がこっちだから…南…南南西?」
と、土手の先を見つめる。
「なんか、本格的っぽい。」
雅範が楽しそうにコンパスを受け取る。
「だから、必要ないって。」
「いいの、いいの。気分、気分。」
雅範もコンパスで川の先を確認する。
「じゃ、みんな、はぐれない様にね。先頭は俺が行くから。」
淳一が土手を走り出す。
「俺、2番!」
雅範が続く。
「智、先行って。」
修に促され、智が続く。
それに続いて修が行こうとすると、和哉が目の前を走っていく。
「修ちゃん、先行くね~。」
和哉がニヤリと笑って智の後ろを走る。
「ずりぃ。」
修が最後からみんなを追いかける。
空に広がる大きな入道雲が、おいでおいでと手招きしている。
5人は南の空に向って、自転車を思いっきりこぐ。
サンサンと降り注ぐ太陽と、抜けるような青空は5人の気持ちを高揚させる。
土手の雑草も少し伸び、青く、風に揺れて波打つ。
時々川の水がキラキラと光り、水しぶきをあげる。
川の魚を狙って、鳥が低空飛行を繰り返す。
いつも、5人が遊んでいる土手の光景。
でも、いつもと違う光景。
5人は体いっぱいに風を受け、自転車をこいでいった。
川はゆるやかなカーブを描いて流れている。
一列に並んで走る5人は3本目の陸橋の下で休憩することにした。
「はぁ~、涼し~。」
淳一が芝の上に腰を下ろす。
「結構、近そうだね。もっと遠いかと思った。」
修も淳一の隣に腰を下ろす。
「智、ここ。」
修は自分の隣の芝を叩き、智を呼ぶ。
呼ばれるままに隣に座った智は、ニッコリ笑って汗を拭く。
「お腹空いた~。」
雅範が芝の上に足を投げ出し、両手を後ろにつく。
「朝ごはん、食べてこなかったんですか?」
雅範の隣で和哉も両足を伸ばす。
「食べてきたよ~。でも、すぐ空いちゃうんだよね。お腹。」
雅範がお腹をなでながら、ひゃっひゃと笑う。
「はい。」
智はリュックの中に手を突っ込んでごそごそと探ると、
自分のななめ前に座っている、雅範に向ってバナナを差し出す。
「元気になるから。」
「え?いいの~、智っ!」
雅範は智に抱きついた。
「俺の気持ちがわかるのは、やっぱり智だけだよ!」
「大げさな…、そんなのみんなわかるから。」
淳一が呆れて二人を見ながら水筒を口に含むが、
修は二人の間に割って入る。
「暑苦しい!」
「そうですよ。せっかく涼んでるのに…。」
和哉も雅範の腰を引っ張る。
「ああ~、智~。俺達、引き離されちゃう~。」
智は笑って、バナナをみんなに配る。
「うふふ。……はい。これ修君。」
「あ、ありがとう。」
「バナナは元気になるからね。んふふ。」
みんなはバナナを食べながら、川を眺めた。
涼しい風が5人の間を流れていく。
さっきまでかいていた汗も引き、5人の髪を揺らす。
川に映る鉄橋の影が色濃くなってきたのを見て、淳一が立ち上がる。
「そろそろ行くか。」
「そうだね、帰りもあるし、そろそろ行かないと。」
修も立ち上がると、お尻をパンパン叩く。
「え~、なんかここ気持ちいい~。」
いつの間にか寝転がっていた雅範が駄々をこねると、
修が雅範の手を掴んで引き上げる。
「ほら、立って。」
雅範がしかたなく立ち上がり、それを見ていた智も笑いながら立ち上がる。
「よっこいしょ。」
和哉が掛け声をかけて立ち上がると、みんな一斉に笑った。
「カズ、おばあちゃんみたい~。」
智がんふふっと笑い、
「お前、いくつだよ!」
淳一があははと笑った。
5人は自転車に跨ると、次の鉄橋目指して自転車をこいだ。
夏の陽射しが、5人を照らし、5人の影が小さくなった。
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