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タイムカプセル #7
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川はどこまでもつづいているようだった。
行く手に広がる入道雲が空の青さを強調している。
抜けるような青空は5人を、竜の木まで導いてくれそうな気がした。
4つ目の鉄橋を越えると、智のこめかみを汗が伝った。
智は汗にあたる風が心地よくて、ちょっと上を向いた。
緑の匂いが鼻をくすぐり、知らず知らずのうちにふふっと笑っていた。
5人は5つ目の鉄橋に到着すると、お昼にすることにした。
また、鉄橋の下のコンクリに円を描いて腰を下ろす。
一番汗っかきの雅範は滝のような汗をかいていた。
「雅範~、シャワーでも浴びたの?」
淳一がからかう。
「違うよね~。川に落ちたんだよね~。」
和哉が輪をかける。
「うるさい!仕方ないだろ?汗かいちゃうんだから。」
雅範はリュックからタオルを取り出して、
しきりに首の周りを拭いている。
雅範の髪から、ポタポタと汗がしたたり、
拭いても全く意味がなかった。
「すごい新陳代謝だね…。」
修も目を丸くしながら、自分の汗を拭く。
「マー君!」
智は雅範の頭にタオルを乗せると、ガシガシと拭き始めた。
「おわっ!」
「んふふ。お風呂上りみたい~♪」
「そうそう、お風呂上りの犬みたい~。」
和哉がおもしろそうにはしゃぎたてる。
「うるさい!智、大丈夫だからっ。…ひゃっ。」
淳一水筒の氷を取り出して、雅範の背中に投げ入れた。
「これで汗ひくかもよ~。」
「冷てぇ……ジュンっ!」
雅範が淳一を追いかけると、せっかく引いた汗が
また、流れ始めた。
「ほら!お昼にしないと、夕方までに帰れなくなるよ。」
修はコンクリの上に腰を下ろしてリュックを開ける。
見ていた4人も、おっと!とそれにならった。
おにぎりはあっと言う間に5人のお腹の中に消えていった。
川の流れはゆるやかで、5人もお腹が満たされたせいか、
川の流れのようにまどろみ始める。
コンクリの上はヒンヤリしていて、体の熱を吸い取っていく。
風も心なしかヒンヤリしていて、
智はリュックを枕にウトウトしていた。
「智。こんなとこで寝たら風邪引くから。」
「え?そういう問題じゃないでしょ?」
雅範に突っ込まれても、修は全く動じない。
「ほら、起きて。」
修は智の体をゆする。
「う~ん、ちょっと…。」
「全く、修ちゃんは智に甘いから。」
和哉が二人の間に割ってはいる。
「ほら、智、起~き~て。」
これ以上ない、と言えるほどの優しい声で
和哉が智を起こす。
「お前だって甘いじゃないか。」
「ほ~ら。起きないとチューしちゃうよ。」
和哉が智の顔を固定してチューする振りをする。
「う~ん……。」
「ひゃっひゃっひゃ。智はそんなんじゃ起きないよ~。」
雅範と淳一が顔を見合わせて笑った。
「ふふ。いいんです。それで。」
和哉は寝息を立てる智の口にチュッと唇を重ねる。
「あ~っ!」
雅範が叫ぶ。
「ほんとにした?」
淳一が怒る。
「ふざけるな!」
修が吼える。
3人が一斉に和哉に掴みかかった。
「やったもん勝ち~!」
3人に攻められても、ニコニコしている和哉に3人は余計に腹を立てた。
「ん~、ふぁ~。」
4人が騒いでいる横で、目を覚ました智は、
大きく伸びをすると、4人を見てにっこり笑った。
5つ目の陸橋まで来た5人は、淳一の地図を頼りに土手を下りた。
「コンビニだよね~。」
智は自転車を引きながら、キョロキョロと周りを見回す。
その道は土手沿いを走る細い道で、車も時折通るくらい。
コンビニなんて、ありそうもなかった。
「この辺にはなさそうだけど…。」
雅範も一緒にキョロキョロする。
「この辺なんだよね?」
修が心配そうに淳一の地図を覗き込む。
「ちょっと走るか。」
淳一が自転車に跨ると、みんなも一斉に跨った。
地図によると、5つ目の鉄橋からほどなくして
コンビニに辿り着けるはずなのだが、
5人が自転車を10分進めても、コンビニには出会えなかった。
「道……逆なんじゃないの?」
和哉が水筒を口に含み、汗を滴らせて淳一を見る。
「兄ちゃん、絵ヘタクソだからな。」
「じゃ、さ、鉄橋まで戻って、そこから5分行ってもなかったら
また鉄橋に戻ってこよう。」
修がみんなの顔を見回しながら、確認する。
「うん。そうだね!道が違うかもしれないよ。」
雅範が汗をダラダラかきながら、ニカッと笑った。
「それだ!この地図じゃ、道が何本あるかわかんないし!」
淳一が人差し指を立てて、雅範を褒める。
「マー君、すごいね。さすがだね!」
智がふにゃりと笑うと、雅範が照れて頭を振った。
雅範の髪と一緒に汗がみんなに飛び散り、
雅範はみんなに怒られた。
逆の道を確認することなく、もう1本、奥の道に進んでみる。
しかし、その道にも見渡すかぎり、コンビニはない。
みんなで相談の結果、とりあえず、先に10分進んでみることになった。
奥の道はさっきの細い道より、やや大きいが車はほとんど通らなかった。
そんな道だったから、最初は一列に並んで走っていた5人も、
いつの間にか、道の真ん中を5人くっついて走っていた。
道の両脇にある電線が、青い空に仕切りを作る。
ずっと目の前にあった入道雲はなく、どこまでも抜ける青い空と、
真上に上った太陽が、5人の汗を照らしていた。
淳一が手放しで自転車をこいで見せると、雅範も真似してよろめいた。
智は器用にバランスを取る。
和哉は勢いをつけて手を離す。
修は一瞬手を離したと思うと、パッとハンドルを握る。
そんな修を見て、淳一がビビリとはやし立てる。
「怪我したら、ピアノができなくなるだろ!」
修はプイッとそっぽを向いて、頬を膨らませる。
智は修のその顔を見て笑い出す。
和哉も雅範もつられて笑い出す。
しまいには淳一と修も笑い出し、
暖かい南風が5人の笑い声を後押しした。
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