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タイムカプセル #9
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その時、後ろの方で短い悲鳴のような声が聞こえて、
智と淳一が振り返る。
後ろから勢いよく走ってくる男。
ジーパンに黒いTシャツ。
夏だというのに黒の目出し帽。
その後ろには、道に倒れたお婆さんの姿が見える。
男は走りながらキョロキョロと周りを見回すが、逃げ道は正面しかない。
正面には自転車をほぼ横並びで止めている5人。
細い道を埋め尽くしている。
男は一番弱そうに見えたのか、
真ん中にいる淳一と智の間に向って突っ込んできた。
智の肩を掴んで後ろに跳ね除ける。
それを見た淳一と雅範がびっくりして、自転車を男めがけて倒した。
雅範の自転車は智の自転車を押し倒し、
男は淳一の自転車と智の自転車の間に挟まれ、足が抜けない。
倒れた智を見た、4人はカァーっと頭に血が上り、男に飛びついた。
自転車の倒れるガシャガシャという大きな音に驚いて、
商店街のおじさん達が店から出てきた。
「ひ、ひったくり、捕まえて~っ!」
お婆さんのありったけの声が聞こえる。
智もみんなに混じってひったくりに飛びついた。
腕に覚えのありそうなおじさん達が、ひったくりを取り押さえ、
5人をひったくりから引き離した。
「僕達、勇気があるね~。でも、危ないから。」
「そうだよ。刃物とか、持ってるかもしれないんだよ。」
「もう、こんなことしちゃダメだよ。」
おじさん達はそう言いながら、5人の頭を撫でてくれた。
後ろの方で倒れていた、お婆さんもやってきて、
5人にしきりにありがとう、ありがとうと繰り返した。
5人は怒られてるのか、褒められてるのかわからず、戸惑っていると、
誰かが通報したのか、おまわりさんがやってきた。
おじさんの一人が、ひったくりをおまわりさんに引き渡している。
「あの…、おじさん。」
修がひったくりを捕まえて、
勇気あるね~と言ってくれたおじさんに声をかける。
「この辺に空き地とか、広場みたいの、ありますか?」
4人は思い出したように、おじさんを囲んで見上げる。
「空き地?空き地か…もう、空き地もなくなったよなぁ。
昔はいっぱいあったんだけどねぇ…。」
「ねぇ、ないの?」
雅範がおじさんの腕を引っ張る。
「う~ん…。あ…、おい!あのマンション建つとこ、ずっと空き地だったっけ?」
おじさんは近くにいる別のおじさんに声をかける。
「え?…あそこは違うよ。工場だったんじゃないかな?
空き地なら、ほら、あそこ、あの…4丁目の角の……。」
「4丁目?……ああ、あそこも来週から工事だっけ?」
「そうだよ…、公園にでもしてくれればいいのに…なぁ。」
おじさんは淳一の顔を見て、寂しそうに嘆いた。
「そこってここから近い?」
智が聞くと、勇気あるね~のおじさんが、ニッコリ笑った。
「ああ、近い、近い。すぐそこだよ。」
「コンビニ、近くにある?」
淳一も興奮気味におじさんの腕をゆする。
「あるある。」
「よっしゃぁ~!」
淳一は勝ち誇ったように和哉を見た。
5人はおじさんに言われた通りに商店街を抜けて、左に曲がる。
しばらく行くと、コンビニが現れた。
意気揚々とコンビにの前を通り過ぎる淳一。
心なしか、不機嫌そうな和哉。
竜の木にワクワクが隠せない雅範と智。
修はみんなを見回して、空を見上げる。
青い空は朝よりも色を濃くし、
白い雲は輝いている。
太陽の眩しさは限りなく澄んで、
汗を吹き飛ばす風はそのまま5人の間を吹き抜けていく。
修はニコッと笑うとみんなに遅れないように漕ぐ足に力を込める。
コンビニを右に曲がると、空き地が顔を出した。
周りを木の杭と針金で囲われ、雑草が膝くらいまで育っている。
時々、バッタが飛び上がり、どこからか聞こえる蝉の声もうるさいくらいだ。
「さっきまで、蝉、あんまりうるさくなかったのに…。」
智が空き地を見て、目を輝かせる。
「これなら余裕で入れる。」
淳一が自転車を止め、針金の間から空き地に入っていく。
4人も次々に自転車を止め、空き地に入っていく。
雑草が肌を掠ってくすぐったい。
「あ!バッタ!」
雅範がバッタを追いかけて走る。
「黒アゲハ!」
修が蝶の羽の模様にうっとりする。
智が空き地の空気を思いっきり吸い込むと、
いつの間にか智の隣に和哉がやってきた。
「よかったですね。空き地があって。」
「うん。後は…竜の木。」
智がキョロキョロと淳一の姿を探す。
淳一は10mくらい先を歩いている。
「ジュンく~ん!待ってよ~!」
智が淳一の後を追いかける。
和哉も一緒に駆け出す。
雅範と修もハッと気づいて後を追う。
「ジュン!どう?」
「う~ん、木らしいのはあれくらいなんだけど…。」
淳一が指差した先には確かに1本の木があった。
でもその木は枯れているように見える。
葉は一つもなく、幹も茶色くなっていて、
生きている木のエネルギーを感じさせない。
途中で折れた枝もかさかさしていて、水分を吸っているように見えない。
「あれ……なの?」
雅範が不安そうに尋ねる。
「わかんねぇよ。」
淳一も戸惑いを隠せない。
その木は3mくらいの高さがあった。
でも、やはり葉はなく、カブトムシがいっぱいやってくるような
木には到底見えなかった。
「これなのかな?」
修は空き地を見渡してみる。
どうみても、木らしい木はこれ1本しかない。
「きっと、これだよ。」
智が真っ直ぐに木を見据えて言う。
「どうしてそう思うんです?」
和哉が智を不思議そうに見る。
「う~ん、わかんないけど、そんな気がする。」
「でも、今はいないね。」
雅範が木の周りをグルッと回って調べている。
「カブトムシは夜行性だから…。」
修も木を丹念に調べながら、つぶやく。
「え?夜にならないと来ないの?」
雅範がびっくりして、空を見あげる。
今はまだ3時くらい。
夏の夜は遅い。
暗くなるのは夜の7時を過ぎたくらいからだ。
さすがにそんな時間まで遊んでいては怒られる。
「お兄ちゃん、見たんだよね。カブトムシ。」
和哉に聞かれて、淳一の目が一瞬宙を泳ぐ。
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