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タイムカプセル #12
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蝉を追いかけ、走っていた修は
西の空の色が、ほんのり赤みを帯びているのを見て、ハッと我に返る。
修が腕時計を見てみると、時刻は5時半。
予定より1時間も過ぎている。
「やばい。…これじゃ家に帰ったら7時だ……。」
空き地を見回すと、いたるところで、虫網が揺れている。
「みんな~っ!」
叫びながら、木の下に走っていく。
修の声にびっくりした4人が、声のする方に振り返る。
「修ちゃ~ん!どうしたの~?」
雅範が大声で修に答える。
「もう5時半~!」
あちこちから、網がピョコピョコと集まってくる。
「5時半?マジ?」
淳一が一番に到着した。
「どうする?今から帰ると何時?」
雅範がつぶらな瞳を大きく見開いて、はぁはぁ言いながらやって来る。
「だいたい7時くらい。」
修が溜め息混じりに答える。
「マジか~。」
智が虫かごを揺らしながら和哉と一緒に現れる。
「どうする?」
淳一が空を見上げてつぶやく。
木の下で輪になった5人はお互いの顔を見回す。
「どうしよ~!」
雅範が泣きそうな顔で網を握り締める。
「どうしようったって、どうにもできないでしょ?」
和哉が唇の端を引き上げて笑う。
「そりゃそうだけど…。」
雅範が下を向いて、しょんぼりとうなだれる。
「大丈夫だよ。きっと。ごめんなさいって謝れば。
お母さんだってゆるしてくれるよ。」
智が雅範の肩を引き寄せ、にっこり笑う。
「智~!」
雅範が智にギュッと抱きつく。
「……でも、ウチの母ちゃん、チョ~怖いよ?」
「……そうだった…。雅範のおばさん……。」
二人は顔を見合わせ、また抱き合った。
「はいはい。終了~。雅範君、離れて離れて。」
和哉が二人の間に割って入る。
「で、どうする?」
淳一が修に視線を送る。
「そうだよね……。ここまで来たら……暗くなるまで、待ってみる?」
修がみんなの反応を伺う。
「…いいの?」
智の目がキラキラする。
「もう、怒られるのは決まりだからね。」
淳一もニッコリ微笑む。
「そうですね……怒られるんなら、納得できるまで待ってみますか?」
和哉は木を見上げて幹をポンポン叩いた。
「智は怒られるの…心配じゃない?」
雅範が智の目を覗き込む。
「怖いけど……竜の木の方が気になるから。」
智がふにゃりと笑う。
「……じゃ、一緒に怒られてよ?俺の母ちゃんが一番怖いんだから!」
「大丈夫。怒られる時はみんな一緒ですから。」
和哉が雅範の肩を叩くと、智も反対側の肩を叩く。
「じゃ、暗くなるまでいますか!」
修も笑って空を見上げる。
「でも…心配かけちゃうね…。」
淳一がポツリと呟いた。
「じゃ、今から帰る?」
和哉が意地悪く笑う。
「やだよ!見たいよ。俺がみんなを連れてきたんだよ?」
淳一がキッと睨むと、和哉が笑って空を見上げた。
「そうだよね…。知りたいよね。竜の木…。」
和哉の言葉に、みんな静かにうなずいた。
5人は親が心配することも、怒られることも、
やっちゃいけないことをしてることも、十分にわかっていた。
でも、この木が竜の木かどうか知りたかった。
いいや、この木が竜の木だと、なぜかみんな信じていた。
だから、きっと何かが起こる。
その瞬間を、みんな見てみたかったのだ。
空は少しずつ色を変えていく。
昼間、追いかけた入道雲はどこへ行ったのか、
西の空にはふわふわ浮かんだいわし雲。
ぎこちない模様を描いて、太陽の柔らかい光を反射している。
ほんのり赤みを帯びだした空は、徐々にその色を増していく。
日没までもう少しだ。
5人は同じ気持ちを共有していた。
わくわくするような、ドキドキするような、
今からでも帰ったほうがいいような、
帰ったらもったいないような…不思議な気持ち。
「なんか…お腹空かない?」
雅範がお腹を押さえてみんなを見回す。
「お前、今日そればっかりじゃん!」
淳一が笑いながらリュックを開ける
「だって、本当にお腹空くからさ。」
雅範は半分くらいに小さくなったリュックから、次々にお菓子を取り出す。
「まだそんなに入ってたんですか?」
和哉が呆れながら、おやつの山を見る。
「だってさ、もしソーナンとかしたら、食料って思って…。」
和哉は、はぁ、と大きな溜め息をついた。
「都会の真ん中で遭難する人がいたら見てみたいですよ。」
みんな大声で笑った。
笑いながらおやつを食べた。
おやつと一緒に、ほんのちょっとある不安と罪悪感も飲み込んだ。
青かった空が赤のフィルターをかけられて、紫色に変わっていく。
いわし雲は赤く染まり、オレンジ色の太陽が沈んでいく。
空の色が紫色から群青色に変わろうとする頃、
ずっと上の方で、ザァーという音がしたような気がして、
修は空を見上げた。
「風?」
音は4人にも聞こえたようで、みんなも空を見上げている。
「風みたいだね…。」
雅範が耳を澄ます。
またザァーという音が聞こえる。
今度はさっきよりもはっきりと聞こえる。
「ほんとに風?」
淳一が耳をそばだてる。
和哉は目を凝らして上空の空に集中する。
またザァーっという音が聞こえる。
確実に音は大きくなっている。
智も空をじっと見つめた。
空には星がいくつか瞬いている。
太陽は沈んだばかりで、まだその明るさが残っていた。
太陽から遠い、群青色の空から、太陽の方に向って紫色に変わっていく。
紫の空には、赤いいわし雲が広がる幻想的な時間。
智は空の美しさに目を輝かせた。
すると、西の空を一瞬黒いものが横切った。
智は目を凝らして空を見る。
今度は南の空を黒いものが横切った。
それと一緒にザァーっというあの音が、より大きくなって響き渡る。
「なんか、黒いのが…。」
智の言葉にみんな空一面を見渡す。
「あっ。あっち!」
雅範が東の空を指差す。
「今、なんか動いた!」
みんなが一斉に東の空に目をやると、
突如、頭上から割れんばかりの音が響き渡る。
ザァーーッ。
雅範と和哉は耳を塞いだ。
淳一と修は頭を抱える。
智はぼーっと動かなかった。
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