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タイムカプセル #16
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マンションの一角に小さな枯れた木が、白い綱で囲われていた。
「あれ?」
和哉が雅範の顔を見る。
「あんなに小さかったっけ?」
雅範も首を傾げる。
「俺達が大きくなったからね。」
修が言いながら近づいていく。
みんなも木の下に行って見る。
「うん。でもこれだね。」
淳一が木を上から下まで丹念に見てうなずく。
「何?これ?……伝説の木…保存会?」
雅範が読み上げると、みんなその立て札の前に集まった。
「保存してくれてるの?竜の木?」
和哉がみんなの顔を見回す。
「そうだよ。」
知らない声が後ろから聞こえて、みんな一斉に振り返る。
「この木はね、竜の木って言ってね、伝説の木だから。」
知らない年配の男が竜の木を見上げて立っていた。
「え?竜の木知ってるんですか?」
淳一がびっくりして尋ねる。
「君達も知ってる?……もしかして…見た?」
みんな一斉にうなずく。
「そうかぁ。見たのか。俺もね、50年前位に見たんだよ。
ここらの子供で運のいい子は見られるんだけど、君達、あんまり知らない顔だな…。」
「あ、俺達、ちょっと離れてるから。見た時も、親が捜しに来て、大騒ぎになって。」
淳一が笑いながら懐かしそうに話す。
「君達…ひったくり捕まえなかった?」
「はい!…あれも、危ないことするなって怒られて。」
雅範が修の顔を見る。
「でも、おばあさんには感謝されたよね?」
みんな懐かしそうに笑った。
「そうか、あの時の子供達か…。おじさん、覚えてる?
あの時、この空き地を教えてあげたんだけど…。
あの時まで、すっかりこの木のこと忘れてたんだけどね、
君達をこの木の下で見つけた時、思い出したんだ。
この子達もきっと見たんだろうなって。
そう思ったら、この木を残さなくっちゃと思ってね。」
男は竜の木をパンパンと叩いてまた見上げる。
「そうだったんですね。…ありがとうございます。」
修が深々と頭を下げた。
みんなも修に倣った。
「いやいや、俺が残したかっただけだから。近所の悪ガキ仲間もいたからね。
この木はいつでも子供の頃に戻してくれる、大事な木だから。」
そう言って、男の人は手を上げながら、歩いて行ってしまった。
5人は木を見ながら、微笑んだ。
子供の頃の冒険が蘇ってくる。
怒られるのを覚悟で夕暮れを待った、あの時。
カブトムシの大群が大空に上っていく様。
一瞬見えた、若い頃のこの竜の木。
この木も、あの一瞬、子供の頃に返ったのか。
5人もこの木の前に立てば、こうして子供の頃に戻れる。
「なんか、不思議だね。」
雅範がつぶやく。
「何が?」
淳一が木から目を離さず、聞き返す。
「ん……、みんなが子供の頃に返れるなんてさ。」
「おじさん達に感謝だね。」
修が笑ってみんなを見る。
「俺らもおじさんだけどね。」
和哉が笑って突っ込む。
「タイムカプセルみたいだね……いつでも開けられる。」
智がポツリとつぶやく。
「うん。」
修は智の肩に腕を回し、見つめ合ってニコリとする。
「さすが、芸術家。」
和哉が逆側から、智の腰に腕を回す。
「いいこと言う~。」
雅範が後ろから智に抱きつく。
「ほんと、智……好きだよ。」
淳一が智の前に立つと、智の顎に手を添える。
「ちょ~~~っ!」
修が淳一と智の間に立ちはだかると、淳一の肩に手を掛ける。
「それはこの雰囲気に合わないでしょ?ね?」
「俺の心も子供の頃に返ったんだよ。」
淳一は笑って逃げていく。
「ほんとに油断も隙もあったもんじゃない!」
修が振り返ると、雅範と和哉に両側を占領された智が来た道を帰っていく。
「だから、……っんもう!…待って!」
修が智達を追いかける。
その光景を、竜の木が優しく見守っている。
いつまでも、子供の頃の気持ちを忘れずに……。
そう言ってるみたいに。
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