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新しい生活の始まり 3(おしまい)
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棚のボトルを1本1本拭きながら、浅黄は仕事ができる喜びをかみしめた。
それに、正直なことを言うと、慣れない綾倉の家にいるよりも、慣れ親しんだ仕事場の方が落ち着いた。
復帰を喜んでくれた常連客に、浅黄は心から感謝した。
本当なのか、冗談なのか、「浅黄目当ての客が減って、売り上げが落ちてたから復帰してくれて助かったよ」とマスターは言った。
閉店後の片づけを終え、マスターとともに店を出た。
今までは、一人歩いて家に帰ったが、今日からは、山手線の始発まで、マスターと共に朝まで営業している居酒屋で時間をつぶすことになる。
久しぶりの仕事は嬉しい半面、疲れていたので、マンションに帰ってしまおうかとも考えたが、やはり、二人の家に帰るべきだと思いなおした。
タクシーで帰ってもいいと言われたが、早く帰っても綾倉が起きているわけでもないので、マスターと飲んで帰る方を選んだ。
マスターは、時間つぶしの相手ができたと喜んでいた。
ガラガラの山手線に乗り、人もまばらな渋谷駅前のスクランブル交差点を渡り、すがすがしい朝の空気に包まれながら、ほろ酔い気分で家に向かってのんびり歩いた。
まだ誰も起きていない家に帰り、シャワーを浴びてから、綾倉の寝る寝室に音を立てないよう気を付けながら入った。
一緒のベッドで寝ようかどうしようかと迷っていたが、綾倉はベッドのやや真ん中で寝ていた。
これでは、自分がベッドに入ったとき、綾倉を少し押すことになり、起こしてしまう可能性が高い。
隣の部屋で寝ることにした。
起きてしまわないように、そっと髪に触れ、声に出さずに「ただいま」と口を動かすとベッドから離れ、部屋を出た。
心地よい疲労感に包まれ、目を閉じればすぐに寝られそうだった。
言葉を交わすことはできないが、一緒の家に住んでいるというだけで、以前よりもずっと、綾倉のことを身近に感じられた。
今週中にはマンションに置いてある大きなベッドが入る予定だ。
そうすれば、毎晩、綾倉の横で寝られる。
幸福感に包まれながら、浅黄は目を閉じた。
綾倉は、昨夜心配した通り、一人ベッドで目が覚めた。
なんであいつは、と半分怒りながら寝室を出た。
マンションのベッドは明日運ばれてくる予定だが、今日に変更させるべきかもしれない。
藍川が朝のコーヒーを出したとき、綾倉は浅黄が帰っていないのか確認した。
藍川は、昨夜から、旦那様は口を開けば浅黄さんのことばかり、と笑ってしまいそうになるのを何とか抑えた。
「お姿はお見掛けしていませんが、今朝、浴室を使われているようでしたし、お洗濯ものも出ているので帰られていると思います。
お部屋を見てきましょうか」
「いや、いい」
新聞を読み終わってから、浅黄の部屋で彼が寝ているのを確認した。
どうせまた、『起こしたら悪いから』と使わなくていい気を使ったのだろう。
帰ってきたのなら許してやる。
そっと頬に触れた後、声にならない声で「お帰り」とささやき、静かに部屋を出た。
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