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台風の夜 1
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「今日は夕方から台風が来るみたいですよ」
藍川が、起きてきた浅黄に声をかけた。
浅黄がテレビをつけると、台風がすでに到着している西の方の激しい風雨の状況が映し出されていた。
「この辺は、ちょうど、6時ぐらいからひどくなるみたいです」
「じゃあ、客は少ないだろうな」
「お店はお休みにならないんですか」
「マスターの気持ち次第だね」
浅黄にしてみれば、行き帰りの時間に暴風雨でなければ、台風の日に出勤してもかまわなかった。
3時半を過ぎたころ、東京直撃という台風の進路は変わらず、テレビのアナウンサーが「不要不急の外出は避けてください」と呼びかけていた。
マスターから、今日は来客が見込めないから、浅黄は来なくていいと連絡が来た。
「休みになったけど、俺の分の夕飯ある?」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「綾倉さんも、今日は台風だから、寄り道しないで帰ってくるよね」
「夕飯を外で召し上がるとはうかがってないですけど、お休みになったって連絡してみたらいかがですか」
藍川にはそう言われたが、浅黄はそれは少し違うと思った。
もし自分が、付き合っている相手から、休みだから、早く帰ってきてほしいと言われたら、少し困惑してしまうと思う。
通いの家政婦水野は、定時の4時になると慌てて帰っていった。
台風の接近を物語るように、雨が強く降ったり、やんだりしていた。
テレビの気象情報を見る限り、着実に台風は関東地方に向かっていた。
だんだんと風も強くなり、庭の木々も大きく枝を揺らしていた。
「大分、近づいてきたみたいですね」
浅黄がビールを取りにキッチンに入ったとき、風の吹きつける音が鳴り、藍川が声をかけてきた。
藍川は住込みなので通勤の心配はないが、それでも少し不安げだった。
「藍川さん、家族は?」
ずっと、気になっていたことを聞いてみた。
もし、答えたくないことであれば、無理に聞こうとは思わなかったが、50代の女性が住み込みで働いていたら、家族がいたらずっと離れていることになる。
「いません。
両親は他界しているし、夫とも死別して、子供もいませんから。
だから、私にとって、この家の方たちが家族のようなものです」
そう微笑んでから、この家にお世話になることになった事情を話し始めた。
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