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油谷さん 3(おしまい)
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「この間割れたグラスの中に、お前の記念のグラスも含まれてたんだな」
土曜日、乗馬から戻った綾倉がリビングにいた浅黄に言った。
記念のグラスとは、浅黄が初めてお客さんにカクテルを作って出したグラスだった。
マスターが持って帰れと言ってくれたのだが、それが割れてしまって残念だとは思ったが、ものすごいショックという程ではない。
「でも、初めてのグラスだったんだろ」
「日本人は初めてが好きだね。
戦後初めて、日本人で初めて、アジアで初めて、この方式で初めて・・・。
そうやって限定していったら、何でも、誰でも初めてになる」
「じゃあ、お前もなんかの初めてなのか?」
「綾倉家で初めての水商売って、お母さんが言ってた。
綾倉さんは、俺が今日初めて話をした相手だ」
「どっちも、大してありがたくもないな」
「藍川さんは明日、戻ってくるんだよね」
「お前もとうとう家政婦なしの生活ができなくなったか?」
「いや、いい話し相手だから、いないと寂しい」
「水野さんはだめか?」
「彼女は拡声器だから」
綾倉は同意するように笑った。
「それでも、替わりの家政婦より彼女の方がいいんだろ。
お前が水野の代わりに彼女を雇うことを反対したって母が言ってたぞ」
「水野さんはそんなに悪い人じゃないのに、数日で嫌な雰囲気にしてしまう人はどうかなって思ったから。
おかあさんは実は変えたかったのかな」
「母も彼女の言動を好ましく思っていなかったから、変える気は全くなかったけど、お前がどう見てるのか知りたかったみたいだ。
さて、明日まではこの家で二人きりだから、好きな場所で好きなことができるぞ」
浅黄は綾倉の意図が読めず少し考えた。
「今、いやらしいことを考えただろ」
「考えてないよ」
「うそつけ。
私がいやらしい意味で言ったんだ。
伝わってないわけないだろ。
初めて綾倉家のリビングでした二人になるか?」
「初めてかどうかわかんないじゃないか」
「そんなことはどうでもいい。
こっちに来い」
「こんな真昼間に?」
「夜はお前が仕事でいないだろ」
「そうだよ。これから仕事なのに」
「出かける時間までには終わってるさ。さあ」
浅黄はあまり気乗りがしなかったが、綾倉は言いだすと思い通りにしないと気が済まないのを知っていたので、立ち上がり、綾倉の方に向かった。
「ちょっと、いいかしら」
綾倉の母が入ってきた。
「なんでしょう」
綾倉が一瞬がっかりしたような表情を浮かべて言った。
「悪かったかしら?」
微妙な雰囲気を察知して綾倉の母が言った。
「全然!」
浅黄は嬉しそうに、綾倉の母を椅子に座るよう促した。
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