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紅葉の季節 1
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桜井が野口と付き合い始めて、今日で4年目になる。
特に記念日を意識していたわけではないが、会社の帰りに二人で飲みに行き、野口がそう言って思い出した。
野口は会社の先輩だ。
桜井が入社して、新人研修を終えた後、野口に付いて仕事を覚えた。
当初は、何でも知っていて、何でもできる神様のような先輩だという憧れが、いつの間にか、恋心に変わっていた。
この気持ちは絶対に知られてはいけないと自分に戒めてきた。
それが、1か月後、野口に付いての研修が終わり、打ち上げとして二人で飲みに行ったとき、野口から会社を辞めようと思っていると告げられた。
突然のことで、桜井は自分でも驚いたことに、泣いて辞めないでほしいと訴えた上に、自分の恋心を打ち明けてしまった。
後々、この時のことを二人で振り返ったときに、これから頑張ろうとしている新人相手に会社を辞めると言ってしまった野口も、泣いて告白してしまった桜井も、お互い相当酔ってたなと語り合った。
もっとも、野口も桜井のことを好きになっていたために、彼に引き留めてほしくて、辞めると言ったのかもしれないと本人は分析している。
そして、それ以来、二人は付き合っている。
それからは、二人は仕事が楽しくて仕方なくなった。
野口も会社にとどまることにした。
ただ、周りの人たちに二人の関係を悟られてはいけないと気を遣うようになったが、それすら、二人で共有する秘密のようで楽しかった。
二人で飲みに行くことは隠さないが、その後、桜井の家に泊まることは隠した。
翌日も仕事の場合は、わざわざ時間をずらして家を出た。
付き合い始めたころは、二人の思いが通じ合うこと自体が奇跡のように感じていた。
それが、4年目になった今、桜井は少し気持ちが変わっていた。
まず、神様のように思っていた野口の仕事に対して、違うのではないかと思うようになった。
桜井は、周りから仕事ができると評価されているし、桜井自身、仕事にやりがいを感じていた。
新人の頃のように、言われたことを素直にやるだけではなく、仕事のやり方についても自分の考えを持つようになってきた。
それが、野口のやり方と合わないと感じることが多くなってきたのだ。
仕事とプライベートは別と思いつつも、尊敬の念が薄れてきた相手に、プライベートで「お前は俺のものだ」というような態度や言動を取られると、少し、不愉快な気持ちになった。
野口はプライベートでも先輩風を吹かせるタイプだった。
最近は、二人で会っても、なるべく会話しないで済むように、DVDを借りて映画を観ようと桜井が提案することも、一度や二度ではなかった。
野口がそんな桜井の変化を感じ取り、自分にご機嫌取りのようなことを言うのもうんざりしていた。
二人のデートも、どこかに出かけることは少なくなり、肉体的な関係がメインになっていた。
「俺の友達で、アマチュアのオーケストラをやってるやつがいるんだけど、今度そのコンサートに行こう。
お前、吹奏楽部だったろ?」
野口のその提案に、桜井はオーケストラと吹奏楽部って全然違うぜと反発を感じたが、「いいよ」と答えた。
少なくとも、そのコンサートの間は会話をしなくて済む。
桜井の答えを聞いて、野口は嬉しそうに笑った。
そんな野口の表情を見て、桜井は野口に申し訳なく思う。
野口のことが嫌いになったわけじゃない。
でも、心に距離ができてしまったのだ。
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