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ブルームーン 5
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それきり、藤井が店に顔を見せることはなかった。
そして数週間が過ぎたころ、藤井の連れの男が店に姿を見せた。
女性と一緒だった。
「素敵な店だね」
最初の一杯を飲み終えるころ、ほんのり上気した顔で女性は相手の男性に微笑んだ。
「そうだろ。今日は特別な夜だからな」
「特別?なんで?」
「なんでって・・・」
そう言いながら、男は上着のポケットから小箱を取り出して女性の前に置いた。
「結婚してほしい」
女性は驚き、目に涙を浮かべ、相手の男性の顔を見返した。
「返事は?」
「もちろん、『OK』だよ!」
この女性の存在を藤井は知ってるのだろうかと思いながら、浅黄は空気を読まないバーテンダーのように、このタイミングで彼女のグラスを下げた。
「結婚をOKしてくれた彼女のために、何か作ってくれる?」
浅黄の行為は全く気にならなかったように、浮かれた男が言った。
浅黄はジン、バイオレットリキュール、レモンジュースを用意した。
「ブルー・ムーン」というカクテルの準備だ。
「幸福な瞬間」という意味を持つカクテルだ。
一方で、「叶わぬ恋」という意味も持つ。
「こんなお店良く知ってたね?
あなたには似合わないけど」
カクテルの用意をする浅黄の耳に、幸せな彼女が笑うのが聞こえた。
「俺もそう思う。
実は、どこでプロポーズしようかって悩んでたら、会社の後輩がここを教えてくれたんだ。
そいつは、下見にも一緒に来てくれてさ。
仕事でも気が利いてつかえたんだけど、来月、群馬に転勤になっちゃうんだよなあ」
浅黄は手を止め、藤井のことを思った。
そして、用意していたバイオレットリキュールとレモンジュースを片付け、チェリーブランデーなど別のものを準備した。
シェークし、ピンク色の液体をグラスに注ぎ、彼女の前に置いた。
「きれい」
「ウエディング・ベルというカクテルです」
「素敵、ありがとう」
彼女は幸せいっぱいの笑みを浮かべた。
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