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また……いる。
園芸部の小さな畑の脇にポツンとあるベンチに腰かけている生徒。吹奏楽のパート練習と全体通し以外の個人練習時間は、音楽室以外でもいいことになっている。この場所は別棟の廊下の突き当たりで音が反響するし、何より他の音が聞こえないのがいい。僕はいつも一人で自分の音に向き合っている。
そして目線の先、2階から見える窓の外に彼は座っている、毎日。
僕が通っている高校は全員部活動に参加しなくてはならない。当然どの部にも興味を持てない生徒や、塾通いを優先する生徒がいる。彼らは「帰宅部」の代りに「園芸部」に所属する。
園芸部の畑には何種類かの花が植えられていて、僕がみる限りこれを手入れしているのは顧問である校長先生だけだ。たまにモリが一緒に作業しているけど、自分が試したい野菜であって花ではない。学校で一番多い部員数の割に畑は校内で一番静かな場所。
そして木崎が座っている、ベンチに。
同じクラスではないので、彼がどんな人間なのかは知らない。でも噂は聞こえてくる。背はそれほど高くはないけれど170cmは超えているだろう。廊下ですれ違ったとき僕よりも背が低くて驚いた。遠目にみる木崎は僕よりはるかに大きいと思っていたからだ。手足が長くて頭が小さいから大きく見える。切れ長で少し目じりが上がっているけれど、決して意地悪な顔だちではない。片方の口角が少し上がっているせいでどこか柔らかい。
彼はいつもどこか遠くを見ている――僕たちとは別の世界にいるように、あるいは見下しているように――皮肉を言うように口角を片方だけあげて。
いつものように、咲いている花を見ているようでもあり、空を見詰めれば何かがそこに現れるとでもいうように一点に視線を定め無表情に佇んでいる。
この近寄りがたく目立つ存在に女子たちは興味深々だ。そうだろう、なんというか木崎は綺麗だ。美しい顔や格好いいとは違う何か……。
何かと葛藤しているのか、何かを探しているのか、彼の目線の先には何がみえているのかとつい考えてしまう。
ひときわ高い壁をまとっているような雰囲気のせいで、おいそれと近づけない代わりに、憶測と噂が口にされている。それはいいものだけではなく、なかには眉をひそめるようなものもあり、ウンザリする。
木崎は意に介さずといったところなのだろうか、それとも本人の耳には入っていないだけなのか。
まだ覚えきっていない曲のパートを延々繰り返す僕の音は、木崎には邪魔ではないだろうか。取り組み始めたばかりで定まっていない音の存在は、何かを探す木崎には耳障りだろう。だから僕は目を閉じてフレーズに集中しアンプッチャーに意識を傾ける。
早くこの音がメロディーに聞こえるように願いながら。
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