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「モリ?木崎って園芸部?」
弁当を食べ終わってぼーっとしているモリ(盛田)に聞いてみた。
「なんで?あいつ読書部だよ」
「そうなの?」
他の学校では同好会でしかないようなそんな部活動がここには存在できる。大会に出場するような部活動はそれなりの部員がいて部費も支給されるけれど、それ以外は創意工夫で乗り切っているようだ。
モリが所属している園芸部は苗の購入を校長のポケットマネーで賄っているし、読書部というのは図書室にある本を読む活動らしい。
本好きなら楽々こなせる活動だろう、好きな本を読むだけなんだから。
「美野っちが読書部なんだよ」
「でも図書室に行ってないよ、木崎」
「そうそう、美野っちが言ってた。月イチで定例会があって、読んだ本の説明をするらしんだ、部員全員で。そんときはいるみたい。おまけに5冊くらい読んでくるんだってさ」
「そんな時間いつあるんだろう」
いつもベンチに座っているだけで本を読んでいる姿は一度も見たことがない。
「図書室にある本は好みじゃないらしい。海外のが好きとか……だったかな」
「モリは最近野菜植えてないね」
「……ああ」
モリは家業の農家を継ぐことを小さい頃に決めている。ただ新しいものに目がないせいで父親とぶつかる事が多い。
「生き物相手だとさ、気が長くないとダメことばっかじゃん。親父の言うまんまやったほうがいいかな~とかブレてんの。俺」
「両方やればいいんじゃないの?おやじさんの技を受け継ぎつつ、次世代の新たな展開みたいなさ」
モリがガバッと身を乗り出す。
「だよな!欲張ってもいいよな!」
お悩み中だったらしいが、切り換えの早さはモリの専売特許だ。
「新しいことばっかりしてたら潰れちゃうかもよ?
よくドラマとか若旦那が家業を傾けるみたいなのあるじゃない。ついでに言うけど、あのブロッコリーとカリフラワーの合体したみたいなの?あんまり美味しくなかった」
「若旦那って時代劇かよ。でもまあ、そうだなあ。うんうん。あれはイマイチだった。あれは諦めた」
モリは一人納得したように頷いている。自分の進むべき道を決めていてるのはどういう気分なのだろう。僕はまだはっきりしていないし、正直あまり考えたくない。「何でもできるハタケ君」そう言われて今まできたけれど、僕自身は何もできない人間でしかない。
「それはそうと、なんで木崎?」
唐突に話が戻る。モリと話すといつもこんな調子だ。
「園芸部の畑にいつもいるんだ。だから……なんとなく」
「ふ~~ん」
頬杖をつきながら人差し指で僕のおでこをグリグリする(けっこうな力だ)
「めずらしいじゃん、ハタケが他人に興味もつなんてさ」
そうきたか。長い付き合いをしているモリだからわかるコトなのだ。
僕が10歳の頃、両親が離婚したことに起因している。子供の前で罵り合うような喧嘩を見せるようなことはなかった。でも深夜階下から漏れ聞こえる声や、日常に漂う冷たさは未だに記憶から消えてくれない。
楽しくて暖かい3人家族は過去のものになっているのに、必死に僕を中心に積み重ねようとする両親の姿は僕にとって恐怖だった。
その時に思ったのだ。好きになってもそれはいつか壊れるのだと。なら、好きにならなければ壊れても悲しくなることはないのだろうと。
それから僕は誰とも仲良くできる子供になった。本当に相手を見ることもない――嫌いになるほど相手を知ろうとしない。誰にも自分のイヤなところをみせるほどの付き合いもしない。
上っ面だけのニコニコした当たり障りのない、そんな距離を保ち続けている。
イイコのハタケ君。いい人。優しい。実の僕はそんな人間ではない。それを知っているのはモリだけだ。
小学生の頃から一緒で、ハタケ、ハタケと僕を呼びながら色々な話をしてニコニコ笑っている。あちこち引きずりまわし、僕の都合はお構いなしにかまい続ける。
わいわい騒がしいモリの晩御飯に呼ばれ家族全員にあれやこれやと世話を焼かれた。でもそのおかげで僕は自分を保つことができた。
モリがいなかったら僕は人を信じることをしない人間になっていただろう。モリは僕の傍を離れないと思えたし、それを信じられるのはとても大事なことだ。
「だってさ、毎日見えるんだ。個人練習の時」
「なんかしてんの?」
「何もしていないんだ。座ってる、一人で」
モリはグリグリするのをやめてニコニコ笑っている。なんで笑うんだ?おかしいことを言った?
「美野っちに言おうか?ハタケがお友達になりたいって、木崎と」
ぽか~んと口をあけた僕をみてモリはゲラゲラ笑いだした。
「高校生にもなってオトモダチになってくださいとか、ありえないよな!うける」
自分で言ったくせにと思いながら、だんだん可笑しくなって二人でゲラゲラ笑い合う。
弁当箱を片付けながらモリは僕に言った。
「ハタケ、お前は自己評価低すぎてたまにびっくりする。でもさ、皆と仲良くできるのってすごいと思う。俺には無理。姉ちゃんなんかハタケかわいい、かわいい言ってるしさ。お前はいいヤツだよ、俺もハタケ大好き」
「でた、モリの 『ハタケ大好き』 」
弁当箱をトートにつっこみながら顔を下に向ける。モリの魔法の言葉だ。僕はいつもこれに救われる。嬉しくなるけれど、さすがにこの年になって大好きと言われて喜んでいる顔は見られたくない。
モリがこれを言うときは僕が少し不安定な時。
僕は木崎に何を見たのだろう。モリの言うとおり木崎に興味を持ったのだろうか?答えは何も浮かんでこなかったけれど、木崎のことをモリに話せて何故かほっとしていた。
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