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「1DKがなんだよ、泊めてやるっての……」
帰宅してまず部屋の真ん中にカバンを投げて冷蔵庫を開けビールをとりだす。一口飲んでからネクタイを緩めた。ずっとひっかかっていることが日に何度も脳裏を掠める。
モリの「同居人がいる」という言葉が気になってしょうがない。同僚でも友達でもいいはずなのに、モリは「同居人」という単語を選択した。美野が言う様に、はっきりしたことを口にしないのはどうしてなのか。
美野は俺がいなくなったせいだと言った。モリも同じことを思っている?
電話でやいのやいの言ってくるくせに、モリはシュンのことを一度も俺に言わなかった――7年の間、一度も。俺も都合がいいので聞かないまま年月だけが流れていった。
シュンの身に何かが起こっている……
そこに思い当たり、急に不安になった。モリはずっとべったりシュンにはりついていたのに、東京に行くまで男と住んでいることを知らなかったのだろう。シュンがモリに言わない……それは言えないことだ。
ベッドに座り携帯をとりだしたものの、モリの番号をじっと見つめるしかできず指が彷徨う。
シュンのことを何千何万回と思い返してきた。俺が言葉を間違ったことも。
自分が怖がったせいで、欲しいものがすり抜けた。逃げ道をつくった自分の弱さはシュンの拒絶を生み出した。当時の拒絶は自分の全否定と同一だった。相手を思いやることを……俺は忘れていた。
「くそッ!」
携帯を投げつけようかと思ったが、壊れて困るのは自分だ。たいして成長していないくせに大人に少しだけなっているらしい。それもつまらないところだけ。
仕方なくメールの文章を打ち込む。『実は俺の部屋に予備の布団があったりするんだ』
小学生みたいだな……そう思いながら送信をタップした。
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