アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
past:7
-
「園芸部じゃないくせに」
ベンチの後ろから聞こえた知らない男の声。心当たりがまったくない。
ここにはありきたりな花と、どうみても観賞用ではない植物しか生きていない。そして今日も音は流れている。
最初の何日は気が付かなかったが、ここに座り続けて音の存在を知った。俺の知っている数少ない楽器であるトランペットの音は突き抜ける強さを感じるが、いつも聞こえるこの音はとても優しい。軽快にもなるし、聡明で清楚な姿にもなる。その柔らかな音は、自分の思案材料とあまりにかけ離れているのに、少しも嫌ではなかった
どんな人間があれを吹いているのだろうか。そして、そこでやめる。他人への興味は身を滅ぼす。
「いつもここにいるね、木崎君」
俺は初めて横に人間がいることに気が付いたふりをする。少し見ただけで俺にはわかった。色めいた目線が頬を滑る。俺に用があるとすれば、健全とはかけ離れたものだろう。
男を抱くことに正直恐怖している。それをしてしまったらもう後戻りできない。あの信じられないくらいに柔からいものよりも、固い身体を好むと知ってしまったら、今よりももっと生き難い未来しかない。
「手っ取り早く、認めたらいい。楽になる」
「……意味がわかりません」
隣の男はクスっと鼻をならして俺の腕をポンポンとたたく。
「よくわかっているくせに。ここに座ってあれこれ考えても答えはないよ」
見透かしたように言われた言葉にイライラする。
「受け入れるしかないんだよ。否定して違うふりをしても結局は決壊するだけだ。これからの人生をよりよく生きるために、君は自分を認めるべきだ」
何を偉そうに。俺のことを何も知らないくせに。
「僕もそうやって、助けてもらったからね。君の気持ちもわかるし、経験者として助言している。認めることで救われる。このベンチに答えなんかない」
隣の男は『助けてもらった』と言った。助かるのだろうか。俺を裏切り続ける自分や、他の人間と違っていること、沢山の不具合から救ってくれるのか?
それならいいかもしれないと思った。
それから生徒会副会長としか認識のなかった沢海(そうみ)さんが卒業するまでの約半年間、断続的な関係は続いた。この一切恋愛感情のない関わりでも、それなりにSEXを楽しめることを知ったのは、いいことだったのかいまだにわからない。
『思いやりを持って相手に触れれば、そんなにひどい状況にはならない』
沢海さんがいつも言っていたとおり、相手が男でも女でもひどい状況に至ることはなかった。それは行為が概ねうまくいき、恋愛感情が互いになくても、あるいは片方にしかなくても成立するという事実。
沢海さんは俺を助けると言った。たしかに自分を認めてしまえば楽にはなった。一歩踏み出してみれば、そのラインは思いのほか狭いものだったし、大きく自分が変わってしまうものでもなかった。
そう、結局は変わらないということだ。
また好きになる相手を間違って、苦しむかもしれない現実と決別できないということだ。 誰も助けてくれない……そういうことだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 48