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「木崎?気になってることがあるんだけど」
4限目のチャイムが鳴り、現国の教師が来る前のわずかな時間、席替えで隣になった盛田に話しかけられた。盛田はいつも笑っていて、波多家とべったりくっついている。美野がそれにちょくちょく加わり、この3人はいつも楽しそうだ。昼休みには隣のクラスから久田が加わり、弁当を広げる。
盛田が俺の何を気にしているのだろう、まったく心当たりがなかった。
「昼どこで食べてんの?一人なのか?」
なんで誰ともつるんでいないのか?周りをちょろちょろしている女子を一人くらいわけてくれないか?そんなことだろうと考えていたためか、この予想外の質問に一瞬ぽかんとしてしまった。
そんな俺をみた盛田が目をまん丸にして驚いた表情に変わる。それがとても可笑しくて我慢できずに噴きだすと笑いが止まらなくなった。
「そんな笑うことないじゃんか」
片方口角が上がっている俺は、普通にしていれば少し笑っているように見える。それを大いに利用させてもらい、自分の話に柔らかく微笑んでいると勘違いさせておく。だからこんな風に教室で笑うことはなかった(女子にいわせると柔和でクールな木崎君になる、ばかばかしい)
「モリ、木崎に何言ったんだよ」
呆れ顔の美野が一番前の席から言ったせいで、盛田は教室中の注目を浴びて真っ赤になっていた。少しかわいそうだが仕方がない。
俺に変な質問をするからだ。
「起立!礼」
「ありがとうございました」
現国の退屈な授業が終わった。どうしてこうつまらないのだろう。本を読むのは楽しいのに、勉学になるとまるで面白味がない。
物語を自分の中に取り込んでしまえば、登場人物の心情や、一文がどの箇所の説明をしているか悩むことはない。人に教わって主人公の気持ちを理解するのは退屈でしかないと思う。
俺の現国の教科書はまっさらで何の書き込みもない。
さすがに小学生の頃は漢字を覚える為に国語の勉強をした(目的はふりがなの無い本を読むためだった)が、中学に入って以降、現国の勉強は一度もしたことがない。それでもつねにテストはほぼ満点であり続けたし、たぶんこの先も変わらないだろう。
「さっきの続きなんだけど」
盛田が俺に声をかけてきた。続き?俺はとっさに思い出せなかった。
「いや、だから。昼一人で食べてるのか?って聞いたじゃん、俺が」
ああ、そうだった。なんでそんなことを聞くのか不思議に思う。盛田の驚いた顔を思い出してまた少し笑いの発作がぶりかえしそうになった。目の前の顔が赤くなり始め、さすがに盛田が少しかわいそうになり正直に答えることにした。
「生徒会室で一人食い。教室にいたら面倒だし何かとね」
「それはいかんなあ」
「なんで?」
「ハタケにもいっつも言ってるんだけどさ、飯は一人で食っても美味しくないだろ」
俺は唖然とした。なんで生徒会役員でもないのにそこに入れるのか、もしくは『何かと面倒』に突っ込みが入ると思ったのに、まるで違ったからだ。一人で食べるのがダメ?
「盛田ってなに考えてるの?なんか久しぶりに驚いたよ」
そう言ったあとに、また盛大に笑う俺を睨みながら、盛田は自分の机を隣に並べてくっつけた。いったい何が始まったのかと盛田の顔を見ていると、イスと弁当を持った波多家と美野が当たり前のよう席につく。
「悪いな、机借りるわ」
美野にそう言われて弁当の時間だと思い当たる。まもなく久田も来るだろう。自分の弁当を取り出そうとしていたら盛田が当たり前のように言う。
「さっき言っただろ?一人で食っても美味しくないの。だから木崎もここで食べるの」
盛田のその言葉で状況を見極めたらしい美野がおかしそうに俺の顔を見ているから、ますます一人になりたくなった。
「盛田、何言ってんの?」
「え?木崎も一緒に食べるの?」
波多家がそう言った。そして恥ずかしそうに嬉しそうに笑うから、なんだかその顔から目が離せずに弁当をそのまま机の上に置いてしまう。行かないでくれ、ここに一緒にいてくれ――そう言われているような気がしたから。
嫌な予感がした。身に覚えのある感覚……でも俺はそれに逆らって弁当の包みを開いた。
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