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7月の日曜日。ホテルのスケジュールボードは『結婚披露宴』の文字が沢山並び、結婚式の出席者でロビーは溢れていた。
披露宴が終わったグループと、次に控えるグループが入り混じっている。ロビーで暇潰しをしようと早目に来たことを後悔するが後の祭りだ。
結婚式を理由に早々に叔父の家を暇した。両親は家を引き払ってアメリカに移り住んでいるから、親戚の集まりごとは俺にお鉢が回ってくる。法事程度なら仕事だと言い訳もできるが、爺さんが亡くなってまだ3ケ月しかたっていないのに、札幌に来て叔父の家に寄らないのは不義理だろう。羽田で土産兼供物を買い、面倒は先にすませてしまえと手を合わせてきた。
泊まっていけという叔父達には友人宅で飲み明かす約束があるからと断り、披露宴の時間も2時間サバをよんで家を出た。
会場前にソファがあるだろうし、久田に言えば発起人のイスを貸して貰えるだろうとエレベーターに乗り込む。
もう考えるのはやめた。「元気か?」「久しぶり」シュンに逢って第一声を何にしようか。近況に触れるのはまずいだろうな。頭の中でいろいろ考えを巡らせてみたものの、シナリオ通りに進むはずもない。顔を見たら全部飛んでしまうか可能性が一番高い。
「うわ、早すぎだって」
エレベーターを降りて会場に向かうと、すぐに俺を見つけた久田に言われる。
「爺さんのお参りして、おじさんの所早く出てきたかったからさ。下が一杯で驚いた」
「あのなあ。今日は大安吉日の日曜日だぞ?パンパンだろう」
「昨今の結婚式事情に無縁なんだよ」
「まだ最中だからな」
「なにが?」
「ここの部屋だよ、今は佐々木家と近藤家の披露宴中」
「式場って使い回しするのか」
「ここ友達が働いているホテルなんだよ、この規模の披露宴ができる部屋は2つあるんだ。昼間は6式を2部屋。夜の部もある。日和のいい日は宴会スタッフ全員殺気だってるみたいだね。ドンデン×3だ!それも2回も!ってさっき話したら機嫌悪かったし」
「ドンデン?」
「近藤家が終わって全部変えて掃除してセットして美野家を始めること。ドンデン」
「なるほどね、ひっくり返すわけね」
俺は結婚式に縁がなさそうだが、式場の使い回しとは少し残念な感じがする。それを嫌うカップルはレストランウエディングやガーデンなんとかを選ぶのだろう。
結局会場前のソファに座って本を読み始めたが、お色直しの新郎新婦が出たり入ったりするし、出席者が酔っ払いながらトイレに入れ代わり立ち代わりで集中しにくい状況だ。
7:00台のフライトで早起きだったし少し寝たほうがいいだろうと、本を閉じそのまま目を閉じた。
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