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「征広?」
肩を揺すられてハっとする。けっこう深く寝入ってしまったようだ。モリが俺の顔を呆れたように見下ろすから、寝過ごしたのかと少々焦った。
「まったく、こんなところで寝るなんてさ」
「居場所が見つかんなくてさ、ヒマで寝てた」
モリはそのまま俺の隣に座ってため息をついた。
「みのっちには本気でおめでとうなんだけど、けっこう憂鬱なんだよね、今日」
「モリがため息つくくらいだからな」
「うん……」
握ったまま寝たせいで少し歪んだ本をカバンに戻す。クロークに預けないと……ボンヤリ考えながらモリの太ももをポンポンと叩いた。
「俺ね、考えるのやめた。いきあたりばったりでいく。モリはハタケ大好きばっか言ってればいいから楽じゃんか」
「アメリカに行く前、ハタケと何かあったのか?」
「何かって……なんだよ」
「なんかだよ」
「シュンは言ったか?」
「聞いたけど言わなかった。お前の事聞くとすごく悲しそうな顔するから、聞くのやめたんだ」
「シュンが言わないなら俺もい~わない」
モリは俺の腕をがっしり掴んで俺の体を自分に向けさせる。この前、美野にも同じようなことされたなと思いだしながらモリを見ると、怒った顔にぶちあたった。
「征広、ふざけてんじゃねえよ」
モリに言えなかったのか。そうだろうな、説明するだけでも大変だし、当時は俺の気持ちはともかく、シュンは混乱していたはずだ。未だにその当人同士だって解決できていないのにどうやって他人に話せるのかって事だ。無理に決まっている。だから素直に言う。
「ふざけてないよ。7年間毎日俺は考え続けている。堂々巡りを延々繰り返して毎日過ごして後悔ばっかりだ。できることなら……シュンは違っていてほしい。ヤクザだろうとなんだろうと今幸せならそれでいい」
腕をつかんでいる力が緩んだ。さっきまで怒っていた顔はなんだか泣きそうにみえる。
「幸せなら『ハタケ大好き』を5回も言わない」
「だよな。モリは下に行けよ、シュンを見つけて「おう!」って笑って出迎えができるのはモリだけだからさ」
「征広は?」
「俺はここで、いきあたりばったりに賭けるよ」
モリは俺の肩を支えにするようにしてソファから立ち上がる。
「モリ?」
「なにさ」
「毎日弁当食べてたよな、俺達みんなで」
「うん」
「わいわい他愛のない話をして昼を過ごした、あの時が一番楽しかったと今なら言える。たぶん、それを思い出したら……今日だって楽しくなるしうまくいくって」
「わかった。征広にガンガン振るからちゃんと乗ってこいよ」
「乗りまくってやるさ。モリっていいヤツだな、前からずっと思ってたけど」
モリは少し照れくさそうに俺を見下ろして言った。
「征広もな。俺と違うところはお前は格好いいってのがプラスされている。憎たらしいけど」
俺はモリの背中をそっと押して「いってらっしゃい」と言った。モリは「いってきます」と返してエレベーターに消えていった。
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