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結婚式に初めて出席するせいか少し緊張気味でロビーに入った僕は、人の多さに驚いた。今日は披露宴が多いのだろう、着飾った人たちが沢山だ。
自分のスーツ姿が決して派手ではないことに安心した。結婚式に必要だからスーツを返せと言ったら、あの男は新品のスーツを用意した。それは僕が持っていたものよりはるかにいい物で、かえって迷惑でしかない。返すと言ったら『ハダカで行け』と凄まれ受け取るしかなかった。
明るめの紺色の三つ揃いのスーツに白いシャツと光沢のある模様が織り込まれたグレーのネクタイ。
くれるというのならもらっておこう――物に罪はない。
誰か先に来ていないかと見渡すが、見知った顔がないのでそのまま会場に向かうためエレベーターに向かって歩きだす。あと数歩でエントランスというタイミングでエレベーターの扉からモリが出てきた。
「モリ!」
モリは僕を認めて少し早歩きでやってきた。
「よ、こないだぶり。ハタケのそんな格好初めて見たよ!」
いつもどおりのモリの笑顔を見られて安心する。この間突然泊まるといいだし、あのおかしな部屋や見張りの男と顔を合わせたあとだ。鈍い男だから勘繰らなかったと思うことにしたとはいえ、笑顔を見せてくれてほっとした。
「ここは混んでるからさ、もう上いって受付しちゃってソファに座ってよう」
「そうだね、久田は?」
「発起人だからね、出席者から金を巻き上げているよ」
「モリ、またそんな言い方して」
「さっき寝てた征広を起こしたから。さすがにもうしゃっきりしてるだろうし」
エレベーターのボタンを押しながらモリが口にした名前に身体が固まる。
「ユキ……きてるの?」
モリは何を言ってるんだ?みたいな顔をして言った。
「あたりまえじゃん、みのっちの結婚式に征広がこなくてどうするんだよ」
エレベーターの扉が開いた。モリが不自然なくらいに強く背中を押すから、エレベーターの中に入ってしまい、逃げるタイミングを逃してしまう。
確かにそうだ。わざわざモリが僕に逢いに東京まで来たくらいだ。征広だってアメリカから呼ばれたのだろう。
「ア、アメリカから来るのは大変だったろうね」
モリはふうとため息をつく。
「征広はね、今川崎に住んでるよ。ハタケは東京に住んで札幌から遠ざかったつもりかもしれないけどさ、今や征広とはお隣さんだ、残念だけど」
「……」
「俺、思うんだよ、ハタケ」
「……なに?」
「どんなに離れようとしてもさ、征広とハタケは近づきたがってるんだよ、無意識に」
モリはそう言って僕の肩に腕を回した。
腕の重さと体温、そしてこの扉の先にいるユキを想って、零れそうになるものを必死で抑え込んだ。
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