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「だから言ったんです。絶対売れますよって」
久しぶりにやってきた秋元さんはニッコリ笑いながら開口一番そう言った。
秋元さんの言葉どおり予想以上に話題になった『想い』は部数を伸ばし、過去に出版した本も引きずられるようにして増刷されている。今までは女性の支持が多かったのに、今回は男性にも受けているらしい。
最近はドラマ化の話も進んでいる。こんな内容をテレビで流していいものか疑問だけれど、脚本家が手掛けた時点で僕の手からはなれて、それは別物になる。それはそれでいい、僕は僕なりにこの話に決着をつけたのだから。
「それにしても……お二人が並んでいると、息苦しくなりますね」
少し困ったような顔で秋元さんがそんなことを言うから、僕たちは顔を見合わせる。
「なんでですか?」
「前と全然違いますよ、お二人の空気が。先生はやけに艶っぽいし、木崎さんは不用意にまき散らしてますよ、なんだかわかりませんが……まき散らしてます!」
可笑しくなって僕はケラケラ笑ってしまった。自分のことはわからないけれど、確かにユキは変わったと思う。迷いがなくなり前よりずっと笑うようになった。いつも穏やかに微笑みながらゆったりしている――そんなユキを見られて嬉しい。
「そんなことより、今日はお知らせがありまして」
「今回ふり絞りすぎて、次作はまだ無理です」
「あ、いえ。違いますよ。フランスから映画化権の打診が来ています」
「は?」
「日本のドラマよりも原作の雰囲気が残るかもしれませんね」
「いや、ええと」
「まだ打診の段階ですから、すぐにどうのこうのというわけではありませんが、嬉しくなってお伝えにきました」
「なんだかすごい話ですね、シュンびっくりだな。先生にも報告にいかないと。そもそも先生がいなかったらシュンは物書きになってないだろうし」
「そうだね、きちんとお礼も言えてないし」
「札幌にも一度帰ろう。結婚式だったから美野と話もできていないだろ?」
ユキと秋元さんと話をしながら僕は決心した。ずっと考えていたことを実現させる。そう決めた。
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