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チャレンジ精神はほどほどに 1
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【本編183話、執筆後】
るな様よりリクエスト《翼ちゃんに宗一さん呼びして欲しいです》のお話です。
まぁ、翼が七重を名前呼びしたら、こうなりますよね(笑)
3人ともブレない、ブレない。
コメディタッチに仕上がりましたが、よろしければお楽しみ下さい。
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「うっ、辛っ…ゲホゲホゲホッ…」
『それ』を食べた瞬間、派手にむせて、目にぶわっと涙が浮かんだ。
「はっはっは、うむ、美味い」
向かいでモグモグと口を動かしている七重は、ご満悦の笑顔だ。
「うぁーっ!」
火をふくような辛さに悶えながら、俺は側に控えている真鍋に必死で助けを求めた。
「はぁっ…」
その呆れ果てた目…。
「まったく、あなたは…」
「あーっ…」
呆れてないで、水、水、水ーっ!
「どうぞ」
疲れたような溜息と共に差し出された水を、俺はひったくるようにして取り、一気に口の中に流し込んだ。
「ぷはぁーっ、死ぬかと思った…」
「ふははっ、からし入りシュークリームくらいで大袈裟だな」
「なっ…食べてみたら分かりますっ!本当、辛いなんてものじゃないですよ!」
平気な顔をして、2個目のシュークリームを口に放り込んだ七重が憎らしい。
「くくっ、では賭けは俺の勝ちだな」
「うっ…それは」
「まさか6分の1の確率で、真っ先にその1個を当てるとは。翼くんは、本当、持っているなぁ」
カラカラと笑う七重を思わず睨んでしまう。
「火宮もこりゃ飽きないわけだ」
「嬉しくないです…」
全くもって褒め言葉ではない七重の声を聞きながら、俺は2杯目の水をチビチビと口に含んだ。
「あーぁ、こんな賭け、挑まなきゃ良かった…」
そうだ。
そもそも何が悪いって、「食事に行くから事務所に来い」って、俺を蒼羽会事務所まで真鍋に連れて来させたくせに。
前の予定が長引いているとかで、事務所にいない火宮が悪い。
しかも間の悪いことに、仕方ないから幹部室で真鍋と大人しく待っていたところに、アポもなくやって来て下さった七重も悪い。
手土産だ、って、なんでロシアンシューなる物騒な代物を持って来たのか。
暇つぶしがてらとかって、俺を誘ったこの人が何より悪い。
「ははっ、負けたときの約束、忘れてはいまい?」
「覚えてます…」
この辛さだけでも十分な罰ゲームなのに、その上さらに、俺は自分の首を絞める賭けをしていた。
「はぁっ…」
今夜を思って、盛大な溜息が漏れる。
火宮さん、このまま帰って来なければいいのに…。
無茶な願いを頭に浮かべたところで、噂をすればというかなんというか。
ガチャッと幹部室のドアが外から開いた。
「何を騒いでいる…っと、オヤジ?」
いきなり開いた幹部室のドアの向こうから、ダークスーツをばっちり決めた火宮が現れた。
「おぅ火宮、邪魔してるぞ」
「真鍋」
「申し訳ありません。近くにお立ち寄りだそうで、会長のご不在をお伝えしましたが、翼さんがいらしていることが知れて、こちらで一緒に待ちたいと」
「………」
ギロッと七重に向いた火宮の視線に、俺が睨まれたわけではないのにビクリとした。
「おぉ怖。言っておくが、偶然だぞ」
「オヤジの辞書には、作為と偶然は同じ意味で載っているんですか」
「はっはっはっ、本当におまえは頼もしい」
「ったく…。油断も隙もない。真鍋」
「はい、すぐにご予約の人数の変更を致します」
さっと真鍋が頭を下げて退室していく。
「え?え?」
何がなんだか分からず、俺はキョロキョロと七重と火宮を見比べた。
「翼、食事はオヤジもだ」
「えっ?七重さ…」
「翼くん」
「う…」
「七重さんも?」と言いかけた言葉は、七重の咎める呼び声に遮られた。
「っ…その、そ、宗一さんも?」
「うむ」
「翼?」
ひぃっ!
火宮の視線が、痛い、痛い。
満足げな七重の目も嫌だ。
「ふぅん。ディナー前に、何をおやつなんかを食べていたのかと思ったが…」
「うっ…」
「ただのシュークリームじゃないわけだ」
テーブルに残っている3個のシュークリームに火宮の目が向く。
なんでそう無駄に鋭いかな…。
「オヤジ?」
「ふははっ、ロシアンシュークリームとやらだ。6個の内、1つだけが激辛からし入り。5個は普通のカスタードだがな」
「で?呼び名を賭けて、翼が負けたわけだ」
チラッと送られた流し目に、俺はプシューッと小さくなるしかなかった。
「1個目で引き当てたぞ」
「………」
あぁその目。居た堪れない。
「仕置きだな」
「っ…」
あぁぁぁ、やっぱりそう来るよね…。
「つけ入る隙ばかり与えて…。ったく、翼がオヤジを名前呼びした回数分、後で尻叩きだ」
「ひっ…」
やだ!そんなの。
痛いことは嫌いだって…。
「安心しろ、薬は使ってやる」
ニヤリ、って…。
それ、あの痛みを与えられてるのに気持ちよくなっちゃって、すっごく屈辱なやつだよね…。
「嫌ぁぁっ…」
安心の要素は1つもないから!
「ふははっ、本当に翼くんは持っているなぁ」
「あげませんよ」
「っ!なな…宗一さんっ!火宮さんもっ…」
もうやだ、この人たち…。
七重って呼ぼうとすると、七重の殺人的な視線に咎められるし。
宗一呼びしたらしたで、火宮の愉しげにカウントする声に泣きたくなる。
「俺のことも刃呼びすればいい」
少しは温情を加えてやるぞって?
「っ…」
無理。
だって「刃」なんて呼んだら…思い出しちゃうし。
アノときしか呼ばないんだから…。
「ククッ、その顔」
「っ?!」
どんな顔?って…なんでキスーっ?!
七重が見ている前だというのに。
平気で唇を合わせてくる火宮の神経が分からない。
「ふっ、軽く鼻に抜ける」
一気食いしたのか、と笑う火宮は、からしの残り香に気づいたのか。
「おまえらな…」
「っ!そうだ、な…宗一さんっ…」
「ククッ、羨ましいですか?オヤジ」
3回目、と視線で語る火宮にガクリとなる。
対照的に、七重は楽しそうに笑っている。
「そっちこそな、火宮」
「ふっ、俺のはベッドだけの特別だそうですよ」
もう本当嫌だ…。
「ふんっ。まぁいい。食事の間中、せいぜい妬いてろ」
「………」
チラッてこっちに向くその視線は何!
「ローターも追加だな」
「はぁぁぁっ?!」
ちょっ、何でそうなるわけ!
「お取り込み中失礼します。お車の用意ができました」
あぁ、こんなときでもクールな無表情の真鍋さん。
もうあなたでもいいから、俺が七重を呼ばなくていいように、会話を誘導して…。
縋りつこうと伸ばした手は、さっとドアを押さえて、綺麗なエスコートをする真鍋に、スマートに躱されてしまった。
あぁ、この人もどSだった…。
助けを求めたのも虚しく、俺は七重と火宮に挟まれた地獄のディナーに連れ出されて行った。
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