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チャレンジ精神はほどほどに 2
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「ほれ、翼くん。これも食べろ」
「ありがとうございます」
「翼、これも好きだろう?」
「う、ありがとうございます…」
この調子でさっきから、右から左からと、俺の取り皿に盛られる料理が山になっている。
「む、ならばこの酢豚はどうだ」
「っ、七…宗一さん、俺…」
「ククッ、8回目。オヤジ、翼は人参もピーマンも嫌いですよ」
高級中華にやって来たのはいいけれど、まぁ苦手な食材がちらほらとご登場なされるのには参った。
「ほら、フカヒレならいいだろう?」
勝ち誇ったように頬を持ち上げる火宮に、ガックリと力が抜ける。
何を七重と張り合っているんだか知らないけど、そんな中でも宗一呼びを聞き逃さないのがすごい…そして嬉しくない。
「むむ、ならばエビチリはどうだ」
ん?って、大皿ごと差し出されても…。
「好きです。いただきます…」
この人、関東最大の暴力団の頭だよね?
本当、こうしているとまったくそう見えない、お茶目なおじ様なんだけど…。
「それにしても翼くんは、少々好き嫌いが過ぎるな」
「う…それは」
「俺も矯正したいとは考えているんですけどね…」
基本火宮さんは俺を甘やかすからね。
「おまえじゃ、ついつい翼くんの好きなものばかりを与えてしまうんだろう?」
「あ、さすがなな…宗一さん、分かってますねー」
「ふん、9回。それはやっぱり、翼が美味そうに食う顔を見たくなりますからね」
まぁ嫌いなものだとやな顔になるのは当然だし。
「ほら、アワビだ」
「釜焼きチャーシュー」
「小籠包」
「チャーハン」
って、もう乗らないから…。
「宗一さんっ!」
「なんだね?」
「火宮さんもっ!」
「なんだ」
なんだじゃないでしょ…。
「食べきれませんから…」
「遠慮するな」
「そういうレベルじゃないです」
「10回目」
「時間差とかいりませんから」
聞き逃してくれないことくらい分かってる。
「おまえら…夫婦漫才か」
「へっ?」
「ククッ、ああ言えばこう言う翼が悪い」
「はぁっ?それは火宮さんですよね!」
減らず口。
「だから、おまえら…」
あれ?
七重が呆れてる。
「いいでしょう?こいつ」
「まぁ、おまえに平気で食ってかかる人間も、おまえをノロけさせる人間も貴重ではあるが」
「あなたの前で自然体な人間も、でしょう?」
「まぁな」
カラカラと楽しそうに笑う七重と、柔らかく瞳を和ませる火宮が頷き合っている。
「宗一さん?火宮さん?」
「ふはは、馴染んできたな」
「11回目」
「このままずっと名前呼びを続けて構わんのに」
いや、それは…。
チラリと視線を向けた火宮が、あまりに艶やかに笑っていて…。
「よ、呼びませんっ!今日だけの約束ですよね!」
「そんなに火宮が怖いか?」
「えっと…」
怖いのは火宮じゃなくてお仕置きなんだけど。
「火宮さんに嫌な思いをさせるのが嫌…かな」
嫉妬は、する方は少しも面白くないよね。
「なるほどな。これはこれは…火宮がたまらんわけだ」
「宗一さん?」
「くくっ、本当に、よく見つけたな」
「俺ですから」
「その不遜なところは、おまえだな」
ふわりと和む七重の目が優しい。
「宗一さんは…」
「ん?」
「宗一さんも、火宮さんのこと、本当に…」
大切で、可愛がってくれているんだな、なんて。
「ふふ、本当にたまらんよ、翼くんは」
「へ?」
何かしたかな、俺。
「あげませんよ」
「火宮さんっ?!」
「たまに借りるか」
「宗一さんっ?」
「貸し出し不可です」
だから、俺はモノじゃないから…。
「ならば今日みたいに勝手に借りるとするか」
待ったそれ、絶対俺に何か弊害が出るやつでしょ…。
「宗一さんっ!」
全力で遠慮したい。
「ククッ、翼。今夜は大変だな」
ニヤリって…。
カウントをやめたかと思ったら、しっかり内心で数えている顔だね、それ。
「あー、もうっ!」
こうなったらやけ食いだ。
目の前にあるのは幸い、庶民な俺がテレビでしか見たことがないような高級料理ばかり。
もう味わわなきゃ損だ。
「んまっ!」
何これ。これってこんな味だったんだ。
頬っぺた落ちそうー。
テレビの人のリアクションが理解できる。
「ククッ、好きなだけ食べろ」
「はいっ!」
現金な俺は、それからもパクパクと食が進み…。
「ごちそう様でした」
最終的にカウントはいくつになったかって?
それは…そこで最高に愉しげなサディスティックな笑みを浮かべている火宮だけが知っている。
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