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リクエスト③ 内緒話 3
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「なるほど」
「っ?」
「ま、ま、ま…」
「ひっ…」
「あ、あぁ…」
「「「「「真鍋幹部っ!」」」」」
ポツリと呟いた真鍋の声に、ようやくその存在を認知した全員が、一斉に青褪め、ガタガタと震え出した。
「誰の姿もデスクに見えず、全員でボイコットをしているのかと思えば、そんな隅に集まって、何の悪巧みの相談だ」
スゥッと細められる真鍋の目が、男たちを順番に流し見て、最後は池田のところで止まる。
「池田、おまえまで」
「ッ…申し訳ございませんっ」
ガバッと頭を下げた池田に習い、その場の全員が頭が膝につく勢いで身体を折りたたむ。
「そうか。そんなに減給が望みか。分かった」
「ッ…」
「なっ…」とか「げ!」とか、顔はそれぞれ不満を見せるものの、真鍋に意見できる人間はここにはいない。
ぐっと文句を抑え込み、仕事をサボって雑談していた自分たちが悪いと諦めて、大人しくその言葉を受け止める。
「池田、浜崎」
「っ、はい」
「はいっ」
「おまえたち、暇なら会長の仕事に切りがつくまで、上で翼さんの話し相手を…」
「えと、こんにちはー。失礼します」
真鍋が命じかけたそのとき、カチャンと控えめにドアが開き、噂の、そして真鍋の発言相手の張本人が姿を見せた。
「翼さん?」
「あ、真鍋さん」
池田さんも浜崎さんも、とにこりと笑う翼に、真鍋の怪訝な目が向く。
「どうしてこちらに」
「え?あれ?庶務課ってここですよね?あれ?もしかしてここ、ヤクザさんの詰め所でした?」
キョロキョロと室内を見回し、キョトンと言い放つ翼に、男たちは殺気立つどころか毒気を抜かれてしまった。
「ご察しの通りですが。あなたは何の用で…」
翼がふらりと来るような場所ではない。
「え?あ、俺、暇だから火宮さんのお手伝いしようかって言ったら、これを庶務課に届けて来いって言われて」
「会長にお使いに出されたわけですか…」
「はい」
にこりと笑って、ドヤ顔している翼に、真鍋が苦笑を浮かべる。
途端に構成員たちの間に、これでもかというほど驚きの波紋が広がった。
『真鍋幹部までっ?!』
『表情が…』
『あれが会長のイロ?本当に何者…』
「聞こえているぞ」
「ひっ…」
「す、すみませんっ」
思わず内緒話をした構成員たちが、ザッと血の気を引かせている。
「あれ?どうかしましたか?」
「翼さんはお気になさらず」
にこりと、口元だけとはいえ、真鍋が笑顔を作る。
それを見た構成員たちは、それはもう大変だ。
ポカンと真鍋を見つめる者。
天変地異かと天を仰ぐ者。
目を丸くして翼を凝視する者などが続出して、ますます仕事にならない。
「おまえたち…」
「っ…」
「それから翼さん、用がお済みでしたら速やかに…」
「あっ、いえ、あと1つ。もう10分もしたら、夏原さんが来るみたいですよ」
にっ、と笑う翼に、真鍋の眉が盛大に寄った。
「会長が伝えろと?」
「いいえ。火宮さんの電話、聞こえちゃって。真鍋さんは知りたいかなって」
ふふ、と悪戯っぽく舌を出す翼に、真鍋が今度は本当に笑みをこぼした。
「それはそれは、お気遣いありがとうございます」
「ふふ、貸し1ですよね?」
「ふっ、あなたは本当に。度胸があられる」
ヤクザに貸しを押しつけるとは。
真鍋の言葉に構成員たちが首を千切れんばかりに縦に振っている。
「このことが露見して、夏原先生に苛められても知りませんよ」
「そのときは、火宮さんの後ろに隠れます」
力説する翼に、真鍋が感情のこもった苦笑を見せた。
もう構成員たちは大パニックだ。
「ではその会長のもとに、そろそろお戻りになられて下さい」
「え?」
「あまり油を売っておられますと、それこそ会長に叱られますよ」
「あー」
何かを考える顔をしてから、コクンと頷いた翼が廊下に向かう。
「お送りします」
「隠れなくていいんですか?」
「その足で。…池田、聞こえたな?後は任せた」
「はいっ」
翼をエスコートして去っていく真鍋を見送り、室内にどっと安堵の空気が流れた。
「見たか?」
「見たな…」
顔を見合わせ、確認し合う男たちは、みんながみんな、どこか呆然としている。
「真鍋幹部があれじゃぁ…」
「会長が笑いかけるってのも嘘じゃないな…」
「会長の本命か…」
「確かに不思議な魅力がある感じだったな…」
翼を一目見た男たちが、呆けたように呟き合う。
「ほら、おまえら。いい加減に雑談はやめて、仕事に戻れ」
池田の一声で、男たちがハッと気を取り直して、ゾロゾロとデスクに戻って行った。
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